しつこく『9勝6敗』戦略の話。
勝ち逃げを許さない賭場からおそらく勝ち越して生還した色川氏はどんなことを言っているか。
いわく、
〈だませ。そして、だまされろ。〉(前掲書p.208)
〈(略)もう少しべつのいいかただと、(人に)利用されろ。
そのかわり、利用しろ。〉(p.205)
色川氏は言う。
「だますな」と「だまされるな」は対、「だませ」と「だまされろ」も対になっている。
だまされないことを望むならだましてはいけないし、だましたかったらだまされることを避けては通れない。
いずれにしても、人にだまされずに自分だけだますことは許されない。全戦全勝はあり得ないのだから、博徒としてブラフにハッタリにツバメ返しとだまして食っていくつもりなら、だまされろ、と色川氏は言う。そして理想は、9勝6敗。
勝ち抜けを許さない賭場で、それでもこっそり9勝6敗するにはどうするか。
いざというときに勝たせてもらうために、星を配っておく。
〈「八百長というのがあるだろう。実際にあるかどうかはべつにして、相撲なんかでも星の貸し借りということがいわれてるね」
「八百長ですか」
「言葉が悪ければ、取引といってもいいよ。明日、どうしても勝ちたいなら、銭を払うか、星で返すかして、相手に負けてもらう。ただ、なんにも条件をつけずに、負けてくれ、といってもなかなかなむずかしい」
(略)
「(略)相手が、銭も星も欲しくなけりゃ、応じないかもしれない。それに八百長だってそんな単純な図式じゃあるまい。いくつも屈折した人間関係をつくって、バレにくいようにしたり、力士によってはイザというときのために、ふだんから方々の力士に星を貸して、星の貯金をしていたり、そのくらいのことは誰しも考えるだろう。だから、相手をその気にさせるために、どういう工夫をするかということもある」〉(p.212)
現代の相撲に八百長があるかどうかは知らないし知る由もないが(*)、いざというときに星を配っておくという考えかたは実生活で9勝6敗で勝ち越しするために応用できそうだ。
(続く)
*参考文献 スティーヴン・D・レヴィット他『ヤバい経済学』東洋経済新聞社 第1章