色川武大『9勝6敗』戦略考(その5)

色川武大氏の『9勝6敗』戦略について考えている。

 

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賭場で若い頃をしのぎ切って生還した色川武大氏が到達したのが全戦全勝ではなくコンスタントに9勝6敗を狙う戦略だ。
大前提となる「賭場で全勝全勝はムリ。勝ち越しすら困難」、たとえギャンブルの天才であっても、ということについて、回り道になるが文献的考察を加えたい。
たとえば麻雀。

 

〈たしかに、一般論で言いますと、ヤクザにも麻雀の下手なのが結構いて、堅気に上手いのが多いのも事実です。しかし、ヤクザと堅気がやったら、ヤクザは絶対負けないもんなんです。〉と、元ヤクザの安部譲二氏は書いている(『極道渡世の素敵な面々』kindle版1335/2262)。
なぜか。


〈堅気は朝になれば会社に行かなければなりません。商人なら店を開けなければなりません。ヤクザは、鉢巻き縛って、水かぶって相手がへこたれるまでやれ。何百万、何千万負けても、こちらが、はい、これで参りましたというまで、勝負はついてないんだ。堅気は所詮、堅気だから、三日も四日も事情が許すはずがない。勝ち分はいいですから、もう帰らせてくださいと言うにきまってる。それでも帰すな、負けるまで帰らすわけにはいかんというのがヤクザだ。だから、どんな下手でも、ヤクザは堅気に絶対に負けない。サービスで飴をしゃぶらせる時のほかは負けてはいけないんだ。
 サラリーマンには、兄弟分がいない。こちらは兄弟分がいるんだから、どんな下手でも四、五時間寝る間、兄弟分にやらせとけばいい。役満でもチョンボでも何でもやらせろ。三〇〇万負けていたのが七〇〇万になってもかまわない。向こうは、「おい、ちょっと係長来て替われ」なんてわけにはいかないんだ。(略)〉(上掲書1334/2262)

 

 

極道渡世の素敵な面々 安部譲二の“極道” (祥伝社文庫)
 

 

色川武大氏は1929年生まれで安部氏は1937年生まれ。賭場で会っていたかは知らないが、少なくともその頃の賭場の、プロの博徒の気概というか気合いというかは凄まじいもので、その中で賭場から生還した色川氏の言う『9勝6敗』戦略から学べるものはたくさんあるのではないか。
(続く)

 

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  • 作者:高橋 宏和
  • 発売日: 2016/02/20
  • メディア: Kindle版