色川武大『9勝6敗』戦略考(その10)

気力が尽きるまで『9勝6敗』戦略の話。

 

勝ち逃げが許されない賭場で勝ち逃げするための一手法として、プロの博徒はその晩の「勝ちライン」を宣言しその場の空気を支配するという。
「今日の俺の目標は百万円。百万円勝ったら上がっちゃうよ」と宣言することで、ライバルの「あいつに勝たせてなるものか」という気持ちを「あいつに百万円勝たせてなるものか」に変え、場の暗黙のルールのラインを引き直す。
百万円勝てずに勝ち越してもライバルの嫉妬心を減らせるし、百万円勝てば「仕方ないか」と勝ち逃げさせてもらえる高度な心理的戦略である。

 

世の中がそれぞれの人生を卓に載せて戦う賭場だとしたら、やはり勝ち逃げや全戦全勝は許されない。そんな中でもなんとか安定して9勝6敗で勝ち越そうというのが『9勝6敗』戦略である。
『9勝6敗』戦略で、この「勝ちラインの宣言による場の空気の支配」を応用するとすればどうなるか。
少々こっ恥ずかしいが、人生や仕事上の大目標の開示、とでもなるだろうか。

 

たとえば「私の/我が社の悲願は◯◯(お好きな言葉をお入れください)」と折に触れ宣言する。
宣言しているうちに自分もその気になってくる。
宣言する、「旗を立てる」ことで周囲に応援してくれる人たちも集まってくる。
逆に、脚を引っ張ってきたり何かにつけて敵対する人たちも、全方面的な「戦争」を仕掛けてくるのではなく、「ヤツの悲願を達成させてなるものか」と一点集中的に戦いを挑んでくることになる。「悲願」を明示することで勝負のフィールドを自ら設定することができる(かもしれない)。

 

もしうまいこと悲願を成就した暁にはさっと勝ち逃げさせてもらうも良し、「まだまだ真の達成とはいえない」とか言ってこっそり勝敗ラインの引き直ししても良し、anyway do as you like.
(続く)

 

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