私家版『こんな仕事があったのか!』

先日、『POPEYE特別編集 こんな仕事があったのか。』(マガジンハウス)をパラパラと読んでいて驚いた。出張おにぎり屋さんという仕事があるのか。炊き立て・特別なお米と具材を持ってイベントとかに呼ばれていって、こまやかな気遣いと握り具合でおにぎりを提供する。読めば読むほどおいしそうだ。
 
世の中、「こんな仕事があったのか!」と驚くことは多い。
自分では思いつきもしなかったが、聞いてみると「なるほど」と唸らされることがある。
 
「北海道にね、憧れの仕事があるんですよ」
ある時、弁護士さんが言った。
「競走馬の契約関係の仕事でね、ああいう競走馬というのは、買い付けとかで大きなお金が動くでしょう。契約とかはきっちりやらないとトラブルになる。あるいは種付けとかも、権利関係はしっかりやらないとね。だから北海道では競走馬関係専門の弁護士がいて、大規模牧場の仕事で悠々やってますよ。時には海外の買い付けにくっついて行ったりしてね。東京だと人間相手のギスギスした仕事ばっかりだから、ぼくなんかはそんなのに憧れますね」
競走馬関係専門の弁護士業、ウラは取っていないが、なるほどこんな仕事もあったのか。
 
「このお店の前はね、ウラジオストク行きの豪華客船で働いてました」
ある時、美容師さんが言った。
「クルーズは長旅でしょう?だから豪華客船には美容室もあるんです。日本とウラジオストクを往復しながら、髪を切ってましたよ」
なるほどこんな仕事もあったのか。
 
「病理解剖専門の開業医ってのがあるんですよ」
ある時、H先生が言った。
「不審死の場合、本来、剖検や司法解剖といって警察で解剖するじゃないですか。でも、四十七都道府県の警察全てで十分に司法解剖できるマンパワーはない。というより、十分に司法解剖できる都道府県のほうが少ないくらいかもしれない。で、明らかに事件っぽくはないけど、遺族が納得しないケースもけっこうあって、人口が多いけど司法解剖の手が回らない○○市では病理医の先生が開業して、遺族の依頼を受けて剖検して鑑定書を出してるそうです。なにしろ競合がいないというのが大きな利点みたい」
なるほどこんな仕事もあったのか(*)。
 
「ドラマや映画で工場や病院のシーンとかあるでしょ」
先輩のYさんが言った。
「ああいうシーン、なかなか撮るのが大変なんだよね。撮影許可がおりなかったり。一方で、うまく話がまとまると、工場や病院にメリットもある。
たとえば工場とかは連休中に機械を止めて休むけど、その間に撮影すれば協力費が稼げる。だけどテレビ局は工場や病院にツテがないし、工場や病院側もテレビ局に売り込むツテがない。
だからそこを橋渡しするのがぼくの仕事ってわけ」
なるほどこんな仕事もあったのか。
 
世の中にはまだまだ知らない仕事がたくさんある。そんな知らない世界のことを教えてもらって「なるほど」と唸るのもまた、ぼくのライフワークの一つである。

*日本の剖検率は低く(2%とも)、不審死が見逃されているのではないかと医師で作家の海堂尊氏も以前より問題提起している。病理医などのマンパワーが少ないためでもあり、海堂尊氏らは死後にCTなどを撮影して死因を分析するAutopsy imaging(Ai)を推進すべきと主張している。実際にAiを推進する「一般財団法人Ai情報センター」という団体もある。
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