ナゾ処方の謎(R改)

ぼくは自分のしている仕事を愛してやまないし、同業種の見知らぬ先輩・同僚・後輩に最大限の敬意と共感を感じる者であるが、外来で他の病院の薬について患者さんから相談された時など非常にごくまれに「なんでこの患者さんにこの薬が処方されているのか全くわからない」というナゾ処方に出くわすことがある。
胃薬が何種類も出ていたり、同じ系統の血圧の薬が処方されていたり。
そんなときは患者さんに「どういった理由でこの薬が始まったんですか」と尋ねても、患者さんも「さあ…」と首をひねるばかり。
「処方してくださった先生は、この薬についてどんなご説明をされてますか」と聞いても、「あの先生は質問すると怒るから聞けないんです」なんて答えがかえってくる。

 

『後医は名医』と言う。
後から診る医者はそれまでの経過を参考にできるし、あとになればなるほど病気の全体像がはっきりしてくるので有利なので、病気の全体像がおぼろげにしか見えない時期になんとかして治療をしようと努力した結果として方向違いの診断・治療に至った前の医者を無思慮に非難することは慎むべきだ、という意味だ。

 

その昔の東大の内科教授の沖中重雄先生は、最終講義でご自身の生涯の誤診率を14.2%だったとおっしゃったともいう。その時に世間は東大教授でも14.2%も誤診するのかと驚き、医療者はさすがは沖中先生、生涯で14.2%しか誤診しなかったのかと感心したそうだ。
それくらい診断・治療(特に病気の初期など)は判断が難しいのだが、それでもなお冒頭のナゾ処方に出くわすとこんな言葉が頭をよぎってしまう。

 

<医者とは薬―それについて彼はほとんど知識を持っていない―を処方し、病気―それについて彼はさらに少ない知識しか持っていない―を治療し、人間―それについて彼は全然知識を持っていない―を健康にしようとする者のことである。   ヴォルテール 1694-1778(フランスの作家)> (エリック・マーカス 『心にトゲ刺す200の花束  究極のペシミズム箴言集』祥伝社 2004年 P.106)

ヴォルテールってのは嫌味な奴だなー。
(FB 2014年1月10日を加筆再掲)

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