「先生よぉ、うまい具合にコロッと逝く方法ってのは無いもんかねぇ。一つ頼んますよ」
元漁師のDさんが言った。
「ほんとにもう、ピンピンコロリと逝きたいもんだね、ねぇ?」
まあまあ、ピンピンコロリってのも考えようで、あれは遺された家族にしてみればただの突然死ですからね。
逝くほうだって身辺整理もあるだろうし、あまりコロリってのも考えものですよ、とぼくが言う。
「そんなもんかねぇ。
この歳になると何の未練もねぇけどねえ。」
そう言いながらDさんはまくったシャツの袖を戻す。
二の腕にチラリとカラフルな彫り物が見えた気もしたが、そこはスルーしておく。
「ほんとによお、俺なんかいつお迎えが来たって構わねえけどな。
むしろ精々すらあ。
…で、先生、今打った肺炎球菌ワクチンってのはちゃんと効くのかね。
大丈夫だよな?」
はい、5年間有効ってことになってます、全部の肺炎を予防できるわけじゃないですけど、と答えながら、ぼくはカルテに「ワクチン接種の希望があり施行。本人、まだまだやる気十分の様子」と書き込んで、その日の診療を終えた。
※フィクションです。念のため。
(FB2014年11月5日を再掲)
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