ヨーロッパの研究助成財団が、助成を受ける科学者に、オープンアクセスでない科学雑誌(含.nature、Science,cellなど)への投稿を禁じるのだという(「plan S」というそう。ソースは下記)。
Radical open-access plan could spell end to journal subscriptions
この話に、とても知的興奮を覚えた。そのうちサイエンスライターの竹内薫氏や、コピーライト/コピーレフトの流れを踏まえ山形浩生氏がきっちり書いてくださると思うがスピード勝負でこの知的興奮について書いてみる。
さて、現状では研究者が有名科学雑誌の記事を読むためには論文1本あたり数十ドルを請求される。
どうして有名科学雑誌側が数十ドルも請求することができるかというと、有名科学雑誌の「格」が高いからで、なぜ「格」が高いかというと「インパクト・ファクター」が高いからだ。「インパクト・ファクター」が高い雑誌にはみんな論文を投稿したがるし、その結果、みんなが読みたがる良い論文が集まる。
「インパクト・ファクター」とはなにかというと、その科学雑誌がどれだけ影響力があるかを示す、ドラゴンボールでいうところの「戦闘力」みたいなものである。
ある論文が他の論文にどれだけ引用されているかを数値化し、引用されている回数が多いほど影響力が高い、と仮定したのが「インパクト・ファクター」で、引用(リンク)されている論文やサイトほど価値が高いとしてよいであろうという考えはgoogleの検索ロジックのもとにもなっている。
論文投稿する研究者にとって「インパクト・ファクター」がなぜ大事かというと、俗世にまみれた言い方をすると出世の武器になるから。ある研究ポストが1つあって、応募者が複数いると、自分が今まで科学雑誌に掲載した論文の「インパクト・ファクター」の合計の多い人が有利になるのだ。
科学が細分化した今、どの人がその専門分野で優れているのかを他分野の人が判断するのは難しい。その人が持つ「インパクト・ファクター」合計点の多さで準・客観的に判断する(せざるを得ない)というのはやむを得ないことだろう。
で、「インパクト・ファクター」の高い雑誌ほど読むために高いお金がかかるということは、大学などのアカデミア以外の人たちや途上国の研究者にとってとても困ったことであった。
論文というのは1本読めばいいものではなく、理想を言えば毎日まいにち数本ずつ読むのが研究マインドを持った人には望ましいが、バカ正直にそれをやろうとすると1日100ドルずつ支払うみたいな状況になってしまう(アカデミアにいる人たちは所属組織が必要経費として払うが、途上国ではどうなのだろう)。
結果、有名科学雑誌を読みたい人が読めない、という状態が生み出されていたわけで、ここ最近、とても問題視されていた。
今回の「プランS」はそれに風穴を開ける試みである。上記記事によると、責任者は「No science shuold be locked behind paywall/科学はpayの壁に閉じ込められるべきではない」と意気軒高だ。プランSのSはScience,Speed,Solusion,ShockのSだという。
くだんの研究財団から資金援助を受けている研究者がこぞって無料で読める科学雑誌に投稿することになれば、だれもがその論文を読めるようになる。長年その状況が続けば、オープンアクセスの科学雑誌の「格」が上がる。「格」があがればますます多くの研究者が優れた研究論文を無料雑誌に投稿し、次第に有料科学雑誌が空洞化する。
知の地殻変動が起こるのだ。
今回の「プランS」、「知は万人に対しオープンであるべき」ということなのだろうが、ヨーロッパ人は時として理念に基づきこうしたラディカルなことをするからすごいよなー。
ヨーロッパ人ってすごいと思うのは、ルール・メイクしようとするところ(後輩のC君の指摘に多くを影響された言説)。日本人だとルールに従っちゃうんだけど、ヨーロッパ人はルール・メイクしようとする。
サッカー中にボール持って走った奴がいたらラグビーっていう新しいルール作るし、温暖化ガス税もそう。そもそも人権や民主主義なんてのもそれまで世界になかったものを「これからこの新しいルールで行こう」っていったわけだし。
ヨーロッパ出身のD君は、剣道の稽古のときに「これからは剣道では胴を打つのは無しにしよう」と正々堂々と主張して、稽古相手のS君に胴を打たれまくっていたとのこと。セ・ラ・ヴィ。