覇権とソフト・パワー2

〈(批准されなかった)欧州憲法の前文の冒頭には、「侵すことも奪うこともできない人間の権利、民主主義、平等、自由、法の支配という普遍的価値観が発達する元となった、ヨーロッパの文化的、宗教的、人道的な継承物」からインスピレーションを得たとある。(略)たしかに民主主義的な考え方は、何世紀にもわたってヨーロッパ文化の一部だったが、それがけっしてすべてではない。アテネの民主主義はたっぷり称賛され、大きな影響を与えてきたとはいえ、バルカン半島の一隅でせいぜい二〇〇年しか続かなかった及び腰の実験に過ぎない。もしヨーロッパ文明が過去二五世紀間、民主主義と人権を特徴としてきたのなら、スパルタやユリウス・カエサル、十字軍やスペインの征服者、異端審問や奴隷貿易、ルイ一四世やナポレオン、ヒトラーやスターリンはどう考えたらいいのか?〉(ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』河出書房新社2019年
p.130)

 

パワーゲームのプレイヤー達はみな、自らの強みを活かし、弱みを隠す。ライバル達の強みを殺し、弱みを突いてゆく。ソフトパワーを使った覇権争いもまたパワーゲームであるのならば、自らの強みを前面に出し、弱いところは隠すのが当然の戦略になる。

 

そうしたことを前提に、もし中国が覇権国となるならば何をソフトパワーとするのかを考えてきた。
現時点でたどり着いたのが、『デジタル徳治主義』とでもいうべきものである。

 

ここでいうソフトパワーとは、国境を越え民族を越えて人々を魅了する、人類普遍的価値観みたいなものである。
前述の通り、覇権国というのは、軍事力や経済力だけでなく、ユニヴァーサルバリュー、コモンバリューを提示できて初めて、覇権国と言えるのではないかと考えている。

 

『デジタル徳治主義』というのはぼくが勝手に作った言葉で、ビッグデータとAIによるデータ処理に基づく個人信用を用いた社会統治法のことだ。

なお、個人的にはそうした個人データ管理と監視社会化は忌避したいと心底思っていることを先に述べておく。あくまで思考実験として書いている。
(続く)

 

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

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  • 作者:髙橋 宏和
  • 出版社/メーカー: 世界文化社
  • 発売日: 2015/11/06
  • メディア: 単行本