部屋とTシャツと私と不易と流行。

「一番ゴージャスなお洒落は、真っ白なTシャツである」。
とある有名なデザイナーの言葉らしい。30年ほど前、朝日新聞の文化欄のコラムか何かで読んだ。デザイナーの名前も覚えているが、ググッても確認できなかったのでデザイナーの名前は書かない。原典をご存知のかたがいれば教えてください。
 
コラムではこんなことが書いてあったはずだ。
有名デザイナーが「真っ白なTシャツこそ最高のお洒落」というのは奇妙に見えるかもしれない。
しかし真っ白なTシャツを真っ白にしておくにはもちろん清潔感と手間ヒマかける程度には余裕がなくてはならないし、真っ白なTシャツを着こなすには引き締まった肉体をキープしておかなければならない。具体的には引っ込んだ腹と適度な大胸筋と上腕二頭筋。現代社会では、そのためには時間的にも金銭的にも余裕がなければならないから、真っ白なTシャツをお洒落に着るのは案外ハードルが高いのだ。
 
通りがかりの店で吊るしてある真っ白なTシャツがどうしても気になって、とうとう買ってしまった。
お洒落もファッションも縁もゆかりもない人生を歩んできた僕だが、どうしてそのTシャツが気になったかつらつら考えてみると、どうにもイマ風に見えたのだ。
ただ、何しろ単なる真っ白なTシャツなので、どこがどうイマ風なのか不思議になった。一つ詳しく見てみようと思って買ってみた。
写真の説明はありません。
なにがイマ風かはあえて検索せずに書くので、イマ風ファッションに詳しいかたはよかったら教えてください。
 
買ってみたTシャツを見てみると、まずは袖が長めだ。売り場の表示では、たしか「5分袖」と書いてあった。
サイズはやや大きめのゆったりサイズだが、ただ単に普通のTシャツをそのまま拡大したわけではなく、袖まわりを特に大きく取っていて、反対に丈はあまり長くない。
Tシャツの起源は肌着だが、このデザインではたとえばワイシャツの下に着ると袖がきつくなるはずだから、もとからアウターとして着るためのデザインなのだろう。生地も厚めである。
門外漢にとっては同じTシャツでも、それぞれの時代によってどんどん変わっていくのであろうなあ。非常に興味深い。
 
そう思ってTシャツの歴史などを今度はググッてみた。以下、ファッションメイカーのキャブ株式会社のサイトに依る。
Tシャツの発祥は19世紀のヨーロッパ(諸説あり)。ヨーロッパ兵の肌着として生まれたという。それをアメリカ兵がマネた。
1912年のストックホルムオリンピックでは、アメリカ選手がアスレチックウェアとしてTシャツを着ていた。
1940年ころにはアメリカ海軍では軍用品としてTシャツを支給、戦後には「アメリカ民主主義の象徴」の一つとしてさらに広まった。
1950年代にはハリウッド俳優が「反逆の象徴」としてアウターとして着始め、1960年代には選挙運動や商品広告用のグッズとして使われるように。
1970年代にはタイダイとかでヒッピー文化の象徴になる。同じころからアーティストたちの作品発表のステージとしても使われるように。
1980年代にはパンクなどのミュージシャンたちと結びつく(ここまでキャブ株式会社のサイトに依る)。
 
このころ、一瞬だけTシャツやトレーナーを裏返して着るという「お洒落」が生まれた(本当。このパラグラフは筆者の個人的記憶)。
またヒップホップ文化では、キッズラッパーのクリスクロスがわざと前後逆に着たり(本当)、ほとんどのラッパーが数サイズ大きい服着たりして、あれはもともとギャングスタが服の下に銃やナイフを隠し持つためにサイズが大きめだったとか。
 
1990年代ころからはキレイめにTシャツ着るファッションが出てきたり、IT系の人あたりからビジネスシーンでもTシャツ着るようになったりとか。
時は飛んで2014年ころから今の「ノームコア」が爆発的に広がったりとかで、Tシャツ一つとっても「不易と流行」というのはあるものなのですね。
 
あ、あと欧米の人ってやけにTシャツにアイロンかけたがりませんか。アイロンの効いたTシャツがお洒落みたいな感覚。まあよう知らんけど。
 
こんなふうにいろいろ調べてみると、縁遠かったお洒落やファッションというものにも興味が湧いてくる。なんだかちょっと学んでみたくなってきた。
控えめに言っても若者という歳でもないが、何事も学びはじめるのに遅いということはないはずだ。今からお洒落とファッションを学び始めれば、うまくすれば来世には間に合うかもしれない。

 

3分診療時代の長生きできる 受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる 受診のコツ45

  • 作者:高橋 宏和
  • 発売日: 2016/02/20
  • メディア: Kindle版