ダイヤモンド・プリンセス号雑感ーそれぞれの集団はそれぞれの行動原理で動く。

「役所というのはね、『前例、条例、予算』で動くんです」
西日本のとある市の市長だったKさんが言った。
K市長(元市長だが、呼びやすい肩書きで書く)は地域の名士として長年地域づくりに取り組み、その後市長を務めた。
地域づくりでの役所とのやりとりの中で体得したのが「役所は『前例、条例、予算』で動く」という感覚なのだろう。

 

世の組織や集団には、それぞれの行動原理がある。
(K市長の言が正しいなら)役所の行動原理の一つは「前例、条例、予算」であろう。民間企業なら「儲かるかどうか」は外せない行動原理だし、政治の世界なら「大義があるか」とともに「票になるか」を無視しては話が進まない。
医者の世界では「患者さんのため」というのは行動原理のトップにある。どんなに重要な会議に出ていても、病院長や教授にこっぴどく叱られていても、飲み会に大遅刻しても、「患者さんが急変して」と言い訳すれば全て許される。それはそうと、医者の人たちは会議や飲み会の集合時間はみんなもうちょっと守ったほうがいいと思うよ。
最後の医者の世界の行動原理が「患者さんのため」というのは身贔屓もあるが、ある程度の身贔屓はお許しいただきたい。「みんな、もっと自分のこと好きになったほうがいいと思うよ」と田中みな実も言っていたし(嘘)。
ええと、集団や組織によって行動原理や行動規範が違うという話であった。

 

で、何かの拍子に行動原理や行動規範が異なる組織が協働することになると、コンフリクトが起こる。
「患者さんのため」という行動原理の医者集団と、「前例、条例、予算」という役所集団とが事前すりあわせなしに突然一緒に働こうとすると、お互いに「あいつら何言ってやがる」となる。
そこへ来て、「そもそも船の中の最高責任者は船長。船長をトップとし、船医などをサブリーダーとした軍隊的な上意下達こそが安全な航行を保証するのだ」という船内スタッフの行動原理、「高い金出してゆっくりクルーズを楽しみに来てるんだから、好きなようなさせてくれ」という乗客の行動原理がぶつかり合い、さらにもって「1人の患者の治療や船内秩序も大事だが、感染者を増やさないことが何より最優先される。そのためには手段は問わない」という行動原理のアクティブ感染症医が乗り込んできたのだから、そりゃあ揉めるわ。

 

念のために申し上げると、上記の行動原理云々はぼくの勝手な推測である。またそれぞれの行動原理について、ぼく個人は価値判断をしない。いいとか悪いとかも思わない。非難も賞賛もしない。ただそういうもんだ、としか思っていない。
例えば役所の『前例、条例、予算』重視という行動原理(仮説)について、むしろ良いものだと思っている。
それは第二次世界大戦中に旧日本軍が大陸で職位や権限や法的根拠をすっ飛ばしていろいろやらかして、あとから政府が追認みたいなことを繰り返した挙句どうなったかが頭の中にあるからだ。行政において、『前例、条例、予算』を尊重するというのはかなりの程度大事なことだと思う。
だからどの行動原理がいいとか悪いとかを言いたいのではなく、ぼくがここで誠心誠意、心の底から力説したいのは、「行動原理や行動規範が異なる集団と協働するときは、相手がたの行動原理や行動規範がなんであるかをしっかりと見据え、それに沿った話の持っていきかたをしたほうがスムーズにものごとが進むんじゃないっすかねー、よう知らんけど」ということである。

 

蛇足だが、「喧嘩両成敗主義」や「中庸主義」に堕したいわけではない。
今回の件、ぼく個人は岩田先生のエキセントリックな言動を含め岩田先生を支持する。
それはぼく個人が臨床医であり、実現可能な範囲で、感染しないで済むはずの人が感染しないようにするのが最善であり、実現できるはずのことが実現できなかったのはおかしいと思うからである。さらに言えば岩田先生と直接仕事をしていない立場だからかもしれない。一緒に働いたら大変そうなのはよくわかる。
立ち位置によって見えるものは異なるというだけの話だ。

 

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