医者ができることとできないこと。

「タカハシさんぼくね、花屋とかいいなって思うんすよ」
呼吸器内科のY君が言った。
今からずいぶん前、新型のウイルスが出現して世界の有り様を完全に変えてしまう前のことだ。

 

「ぼくら医者の仕事って、マイナスをいかにゼロに戻せるかって話じゃないすか。ゼロからプラスに持ってく仕事ではないですよね。
普通の状態をゼロとして、なにか病気になってどかんと大きなマイナスになる。医学や医者の力って、病気という大マイナスをどうにかして治療して小マイナスに持っていけるかもしれないけど、間違っても病気になる前より健康でハッピーみたいな、ゼロからプラスにする力はないと思うんすよね。
だから普通の生活から、それよりハッピーな状態に持っていける花屋とかいいなって最近よく思うんすよね」

 

おそらくほぼ全ての病気は、どんなに医学や医者があがいても、病気になる前より健康でハッピーになることはない。
がんもそうだし心筋梗塞や脳梗塞だって治療法はものすごく進歩したけれど、再発もあるし後遺症もあるし、とにかく病気になる前より元気になることはないと言っていいんじゃなかろうか。

 

医者が「命は助かる」と言う場合、意味してるのは、「なんとかして心臓が動いている状態はキープできるかもしれませんよ」ということだ。
医者が「治る」と言う場合、意味してるのは、「なんとかして病気を体の中から取り除くことはできるかもしれません。病気になる前と同じような生活はできないかもしれませんが」ということだ。

 

だから何万回でも言うけれど、病気にならないに越したことはない。

 

こまめに手洗いをして、人混みを避け、睡眠時間をたっぷり取って体力を温存してください。
人との距離は適切にとって、喫煙してるかたはどうかこの機会に禁煙を。
心身に平安を、日常に感謝を。
大げさに言うけど、人類は必ず新型コロナを乗り越える術を見つけると信じています。ワクチンか新薬かはわからないけれど。
1日がんばれば、1日希望に近づきます。
みなでコロナ禍を乗り越えて、そのときはみなで一緒に祝杯をあげましょう。