clubhouseを覗いてわかったこととclubhouseの未来図。

「うちの病院からね、あちこちの離島に若手が赴任するでしょ。あちこちの離島を派遣医師用にイントラネットで結んだら、当初予想しなかった使われ方したんです」
10数年前に沖縄の病院で聞いた話。
「最初はね、自分のわからない症例をお互いに相談したりしてもらうためにイントラネット繋いだつもりだったんです。ほら、離島の赴任て基本的にひとりぼっちだから。
でも、イントラを運用してみたら、症例の相談もするんだけど、それよりはるかに多く、互いの孤独や、あるいは離島の医療を担うやりがいや喜び、そうした感情的なことを語り合う場になったんです。
そうやってお互いに励まし合いながらね、若い医者がそれぞれ離島でひとりで頑張ってるんだなって思って」
 
祭りには乗ってけとばかりに、ここ数日clubhouseを覗いてるんだけど、一番に思ったのは冒頭のエピソード。
コロナ禍で、今までと同じように直接会って話したり、それこそ飲み会でしゃべったりするのが難しい。でも人間は誰かとしゃべりたい生き物で、そこを埋めるツールなのかなという仮説を立てたのだ。
 
正直、情報伝達のツールとしてはあまり期待していない。情報の、時間あたりの密度が低いからだ。
やってみると分かるが、アナウンサーなどのトレーニングを受けている人でなければ話し言葉というのは情報密度が低い。情報伝達効率の観点からは、間投詞に感嘆詞、冗語に同じ話の反復繰り返し、話の組み立ての無計画性や低論理性などから、通常であれば話言葉は書き言葉に劣る。
だから、多忙な人が情報摂取としてclubhouseを使うことは少なくなるだろう。ここらへんは「お勉強」動画の非効率性と、それでもある程度のニーズがあることと相通ずる。
 
だが、「コミュニケーションの訳語は、情報伝達ではない」。冒頭の話は、「虚空をゆく57億の孤独(あかり)」の話だ。
 
声だけのやりとりというのは、親密性を高めるのに有効だ。
深夜のラジオのディスクジョッキーやパーソナリティ(あえてこの両語を使う)が、自分だけに語りかけてくれている錯覚は、誰しも経験があるだろう。
声だけでやりとりし、同じ時を共有するのは、ある種の共犯関係を演出する。
だから勝手に想像すると、たとえばアイドルの握手会の代替品として使われるかもしれない。
あるいは政治家の車座集会やミニ集会として使うと、支持者の心をコスパよくがっちり掴める可能性がある。
あるいは使われかたとして、新著を出した小説家や著述家が、書店でのサイン会などの代わりに/とともにclubhouseを使うと有用だ。なにしろわざわざ会場まで出かけて半日つぶす必要がなくなる。
 
声だけ、話し方だけというのはメリットになり得る。
たとえば俳優や声優による小説や名著の朗読はすごく需要がある。「森本レオによる、眠れぬ夜のための詩の朗読」とか。
声優つながりでいえば、2.5次元アイドル系イベントとかも、双方向性、共時性を活かせて面白いはずだ。『どついたれ本舗』による大阪ディビジョンラジオとか聞いてみたい(←この部分、読み流してください)。
顔出しNGの漫画家・作家とか(それこそ『鬼滅』作者とか)が場合によってはボイスチェンジャー使ってclubhouseやるとファンは喜ぶと思う。
 
クローズドでもroom立てられるようだから、アルコール・アノニムス的なこととかもできる。
クローズドでカウンセリングをやれば需要はあるだろう(もちろん精神医学的に危険性もある行為だ。密室で、質の担保もできないし)。
 
まだたぶん意識化されていないと思うけど、「面白くしゃべれる人」の需要より、「相手に楽しくしゃべらせることのできる人」「うまく聞いてくれる人」の需要のほうが多いはずだ。
要はですね、話すことの素人の「意識高い系」の話なんて、聞いていても飽きるんですよ。みんなさー、おっさんになると夜の街に行くようになるのはさー、自分の話聞いて欲しいんすよ、夜の蝶の話を聞きたくてお金落とすんじゃなくて、自分の話を聞いてくれて「さすがー」とか「すごーい」とか言ってほしくてドンペリ入れたりJINRO入れたりするんすよー、おっさんになると誰も話聞いてくんないから。という話を聞いたことがある。
 
うまくclubhouse文化が定着すれば、そういうクラブ(⤵︎)みたいな使われかたもするのではなかろうか。
 
ネット文化ってマネタイズが永遠の課題だが、商魂たくましい人なら多少やりようがありそうで、課金した人とだけ対話するようにすればよくて無課金ユーザーは聞くだけとかね。
 
あ、あとですね、「そんな使い方があったのか!天才的!」と思ったのが『農家の朝礼』というroom。
実際に聞いてはいないんですが、農家とかの個人自営業や事業主って、毎朝決まった時間にきちんと仕事を開始できるかってすごく大きい。
個人でやってると誰も監視してくれないし強制してくれないから、「今日ぐらいサボっちゃおうかなー」って魔がさすことがある。
そこをカバーするのに、同業の個人事業主同士で時間決めてclubhouse上でバーチャル朝礼やると、メリハリがつくだろう。うまいこと考えたものだ。
 
clubhouse文化が定着するのか、それとも急に盛り上がった雰囲気を出して急速に廃れるのか興味津々だ。
何はともあれ、ものは試しなので、そのうち「40代になったが、この冬はじめて白湯のうまさに目覚めた」という話でroom立ててみたいものだ。誰が聞くのかは知らないが。

 

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