集合知ー誰に投票するのが『正解』かわからなくても投票に行こう、という話。

唐突だが、多様性ってなぜ大事なのだろうか?
そんな話から始めてジェリービーンズとクイズ番組の話をし、最後は「投票に行こう」というゴールを目指したい。

 

ビンにジェリービーンズを850粒入れて56人の大学生に見せる。ビンの中に入っているジェリービーンズは何個か当てさせると、ある者は400個くらいと答え、別の者は900個と答える。ピタリと当てる者は一人もおらず、誰もが多すぎたり少なすぎたりてんでんバラバラなことを言う。
だが驚くなかれ、56人の大学生がそれぞれ勝手に出した推測値を平均したところ、グループ全体の推測値は871粒。真実に非常に近い答えが得られた。
ジャック・トレイナー教授の「ビンの中のジェリービーンズ」という実験だ(ジェームズ・スロウィッキー『群衆の智慧』角川Epub選書 kindle版 245/4151。原題は「THE WISDOM OF CROWDS」)。

 

テレビのクイズ番組『百万長者になりたい人は?』では、四択問題に15問連続で正解すると100万ドルもらえる。わからない場合、知り合いで一番賢そうな人、「エキスパート」に答えを聞いてもよい。あるいは、スタジオに来ている視聴者に四択のどれが正しい答えか投票してもらってもよい。
知り合いで一番賢そうな人「エキスパート」に答えを聞いたときの正答率は約65%。これに対し、テレビ番組の収録に来た視聴者にアンケートをとって答えを決めた番組には、91%の正答率だったという(上掲書 222/4151)。

 

集団の知恵は、往々にして一個人の知恵を上回るのだ。なぜかはわからないけれど(注1)。

 

集団として賢い知恵を発揮するには、四つの条件がある。
意見の多様性、他者の意見に左右されないという独立性、それぞれがさまざまな情報をもっているという分散性、個々人の判断を集約する仕組みがあるという集約性だ(上掲書 328/4151)。冒頭の話、多様性は、集団の知恵を働かすのに必要なのだ。

 

話は飛躍して、若者の投票率の低さの話になる。
埼玉大学の松本正生教授によれば、若者は選挙や投票に、『正解』があると思っているのではないか、という(朝日新聞2019年7月15日 社会面)。誰に投票するのが『正解』かわからないから投票に行かないという人が一定数いるのかもしれない。
だが唯一絶対の『正解』が何かは、神ならぬ身である人間にはなかなかリアルタイムではわからない。だから人間には他者との対話が必要だし、歴史による検証が必要なのだ。

 

一個人では『正解』にはたどり着けない。
しかし、多様性を持った健全なる「その他大勢」が知恵を合わせたときに、『正解』に近いところまではいけるのではないか。少なくともそうした仮説に基づいて、民主主義は運営されている(注2)。
だから、投票には行ったほうが良い。もし仮に、誰に投票するのが『正解』かわからなくても。
もうすぐ選挙です。ぜひ投票に行きましょう。期日前投票も出来ますよー。

 

もっとも、政治はジェリービーンズとは違うという批判は受け入れるつもりだ。なぜならばもちろん、政治はそんな甘いものではないからだ。

 

注1.クイズの四択問題について、西垣通『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』中公新書 kindle版 451/2508あたりが詳しい。

大雑把に言うと、クイズの答えを知っている者、ある程度知っている者、全然知らない者がいて、後2者のグループの各人は、それぞれの範囲でランダムに答える。ランダムに出された答えは集団が十分大きければ打ち消しあうので、最終的に、答えを知っている者のグループが出す答えの傾向が強く出る(シグナル・ノイズ比の話ですね)からというものだ。原著ではもっと丁寧に説明している。

選挙も同じで、集団が十分大きければ、いわゆるネトウヨとパヨクが対消滅するみたいなことが起こって、良識派の投票傾向が結果に反映されるんじゃないかなーと希望的に考えている。なお、ネトウヨとパヨクに関しては、物江潤『ネトウヨとパヨク』新潮新書 2019年が参考になります。

注2.もちろん瞬間風速的に集団が誤った判断をすることは多々ある。だから歴史に学ばなければならないし、数年ごとに繰り返し繰り返し選挙を行い軌道修正をするのだ。永遠に。

(2021年10月25日に改題・加筆)

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