幸せと菜根譚。

かつて世界で一番幸福な国と言われたこともあるデンマークの、オーデンセの街角で老人はぼくにこんなことを言った。

「幸せというのはね。
それだけでは成り立たないものなんだ。
悲しみとか傷ついた気持ちとかそういったものと一緒でないと、幸福は存在できないんだよ。
友達が死んでしまって悲しい気持ち、だけどそれでも自分はまだここにいて、残されたほかの友達と今を生きていることができると感謝する気持ち。
そんなふうに、幸せというのはいつも悲しみとともにあるのさ」

明の時代に書かれた中国の古典『菜根譚(さいこんたん)』にはこうある。
<一苦一楽して相磨練し、練極まりて福を成さば、其の福始めて久し>(中村璋八・石川力山『菜根譚』講談社学術文庫 1986年 p.111)。
<苦しんだり楽しんだりして、磨きあい、磨きあった結果が最高に達して幸福が成就されたなら、そのような幸福にしてやっと永続するものである>(同書 p.112)という意味だそうだ。

今日もまた、あちこちでたくさんの一苦と一楽が生まれて磨きあったことだろう。
願わくばそうして生まれた幸福が永続しますように。