ちょんまげ健康法

「先生、認知症にちょんまげ(仮)が効くってほんと?」。
テレビで健康番組が放送された翌日、必ずこんなことを患者さんから聞かれる。
(注.2014年に書いた文です)

「昨日、芸人さんの番組でどこかの大学の教授が言っていたけど、ちょんまげ(仮)すると認知症がよくなるんですって。
学会でも発表したって言っていたわよ」

ほんまかいなと思って検索してみると、確かに先日、芸人さんの健康番組でぷりぷり県立大学(仮)の教授が<ちょんまげ(仮)が認知症に効く>という内容の話をしていたようだ。

ネットによれば、高齢者施設の認知症患者さん20人にちょんまげ(仮)をしたら、2週間後に○○テストの点数が何点あがったというような内容だったらしい。
なんでもちょんまげ(仮)をすることによって頭皮が刺激され、その刺激が海馬に伝わって海馬の萎縮を元にもどす、という話のようだ。
きちんと番組を観たわけでもないしこれから観るつもりもないが、この手の話にはたくさんの落とし穴がある。

たとえば発表者が専門外の場合。
テレビなんかだと、水虫の専門家が抗がん剤の治療について堂々と語っていることがあったりするので要注意だ。
その番組で発表していたぷりぷり県立大学(仮)教授の名前を検索してみるときちんと認知症について研究をしている人で、この点は問題ないようだ。

次に研究の手法の問題。
ちょんまげ(仮)が本当に認知症に対して効果があるのかは、ちょんまげ(仮)以外にほかの方法と比較検討して初めて言えることだ。
たとえば100人には高齢者にはちょんまげ(仮)をしてもらい、別の100人の高齢者にはパンチパーマ(仮)にしてもらう。

そうやってちょんまげ(仮)のグループとパンチパーマ(仮)のグループで○○テストをしてもらって、ちょんまげ(仮)グループの人たちのほうが圧倒的に成績がよい場合にはじめて<ちょんまげ(仮)が認知症に効く(かもしれない)>という仮の結論を出すことができる。
もちろん1回だけではまぐれかもしれないので、ここでの結論はあくまで仮の結論になる。
なんどもなんども試してから、ようやく科学は進歩するのだ。

こんな七面倒くさい手続きを踏まなければならないのは、プラセボ(偽薬)効果とかホーソン効果と呼ばれるものがあるからである。

「この薬は新しく開発された特効薬で、飲めばみるみる病気が治るんです」といわれて小麦粉を飲むと、実際に何割かの人は病気が治ってしまう。
「いわしの頭も信心から」と昔から言うように、思いこみの力ってのは結構バカにならないのだ。

だから新しい薬の効果を試すときは必ず、偽の薬を飲むグループと新薬を飲むグループに分けて、新薬内服で見られる効果から思いこみの効果をさっ引いて検討しなければならない。

ついでにいうと、このとき薬を飲む人(披検者)たちに偽薬なのか新薬なのかは決して知られてはならないし、薬を手渡す医者にもその薬が本物か偽物かわからないような段取りを組まないといけない。

薬を手渡す医者が偽薬だと知っていると顔に出てしまって、その顔色を見た被検者が影響を受けてしまいかねないからである。
薬を与える側も与えられる側も薬についての情報無しで行うこのやり方を二重盲検法という。

このちょんまげ(仮)実験では自分がちょんまげ(仮)をしているとわかってしまうのでこの二重盲検法が成り立たないのではないだろうか。

また、ホーソン効果というのもある。
工場で働く人たちの生産性をあげるにはどうすればいいか、ということでその昔実験が行われた。
照明はどのくらいの明るさがいいのか調べるために、だんだんと工場の照明を明るくしていく。
そうすると明るくすればするほど、工場の生産性があがった。
では暗くするとどうなるかということで今度は照明を暗くしていった。
おどろくことに今度も生産性があがっていく。
結論からいうと、様々な条件をどう変えても工場の生産性はあがっていいた。
生産性をあげる実験に参加しているという職員の意識や、経営者が自分たちの労働条件を気にしてくれているという感情そのものが、生産性をあげたのだという(デイル・ドーデン著「仕事は楽しいかね?」きこ書房 2001年 p.91-98  *孫引きなので誤解していたらご指摘ください)。
雑に言うと、人間には実験に参加するとがんばっちゃう傾向がある。

このぷりぷり県立大学(仮)の教授のちょんまげ(仮)実験では、そこらへんのところが問題ありそうである。
ただ、多くの実験や研究は小規模ではじめて<アタリ>をつけてから本格的で正確な実験に発展するので、実験のデザインの不完全性だけをとらえて非難するのはふさわしくないだろう。

そんなことを考えながらこの<ちょんまげ(仮)が認知症に効く>説について検索をしていくと、ちょっと問題な事柄にぶつかった。

このぷりぷり県立大学(仮)教授、ちょんまげ(仮)療法に使うビン付け油(仮)を売るベンチャー企業<ぷりぷり・ブレイン社>(仮)の社長でもあるのだ。
これでは自分の会社のビン付け油(仮)を売りたいがために健康番組に出て、ぷりぷり県立大学(仮)教授の肩書きを使って<ちょんまげ(仮)が認知症に効く>と発表したと勘ぐられてもおかしくない。
実際、この健康番組の放送以降、デパートや通販でビン付け油(仮)がバカ売れらしい。

そこまで調べてぼくはもうお腹いっぱい/fed upな状態になってしまった。
きちんと裏をとって声高に糾弾する気力もないし、不正確な情報をたれ流すのもなんなので(仮)を連発し、オチのない文章ですっきりしない。

こんな時にはいったいどんなアロマを焚けば効果があるのだろうか。