「テレビでやってたけど、○○食べると健康によいって本当?」
日本全国の診察室で患者さんから医者に向けて日々繰り返される質問の一つがこんな話だ。
みそ汁、納豆、コーヒー、たまねぎ、エトセトラ。
根拠がある程度あるものもあれば、根拠のあやしいものもある。
最近よく質問されるのが、「ココナツオイルが認知症に効くって本当?」という話だ。
特定の食べ物が健康によいとかという話が出た場合、医者はどうこたえるシュミレーションしてみたい。
「効くわけないよ、そんなもの」
「テレビはいい加減だからなー」
「効くんだったら世界中の病院で使ってるはず」
ここらへんのところはよく使われるが、決めつける感じが強くてちょっと「上から目線」な感じですね。口調によるけれど、強い口調でこういうふうに言われると、のちのち別の質問もしづらくなる。
もしあなたの主治医が良心的な医者の場合には、以下の三つの言葉を聞くことになるかもしれない。
「エヌが少ないからなー」
「バイアスがねー。ちゃんとブラインドで確かめてないでしょ」
「人間の体って複雑だからね」
一番はじめの「エヌが少ない」のエヌはnで、Numberの頭文字だ。
たとえば100人の人を相手にした実験ではn=100、1000人だとn=1000人と表現される。
研究で重要視されるものの一つがこのnで、研究対象の数はある程度多くないといけない。
動物実験で使われるマウスやラットでは体格や体質の差がほぼ無いが(理由は別途)、人間の場合には体格や体質がバラバラで、その個人差を打ち消してなにかの効果を証明するにはある程度の人数で検証しなければならない。参加人数の多い実験を「nが大きい」、参加人数の少ない実験を「nが少ない」と表現する。
「○○が健康に効く」という話の場合、nが少ない実験というのは、それだけで最終結論を出すほどには決定打にならないのだ。
ネットレベルで調べてみると、「ココナツオイルが認知症に効く」云々という話は「nが少なすぎる」。
だから控えめに言っても、現時点で「ココナツオイルが認知症に効く」かどうかはわからない。
○○が健康に効くとかという話は次から次へとテレビに出てくるが、振り回されるのも考えものだ。
「テレビで言ってたからって本当とは限らない。情報はうのみにしちゃダメ」と、ショーンKも言ってたし(嘘)。
(続く)
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