宇宙飛行士、イチローを語る。あるいは進化と個の挑戦(R改)

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「どうしてみんな、イチローのプレーに拍手を送るんだと思いますか?」
宇宙から帰ってきたその人はそう問いかけた。
宇宙飛行士の毛利衛(もうりまもる)氏のことである。

 

「同じ日本人だから?小さい小さい。
あれはね、人類という種の限界が乗り越えられている様子に拍手を送っているんです。
今まで誰も達成できなかった記録をイチローが塗り替えるたびに、私たち人類という種の肉体的な限界が乗り越えられていくわけです。
同じ人類として、その挑戦と成功に拍手を送っているんですね」
毛利さんは話を続けた。

 

「海の中に住んでいた生物が地上に進出したとき、その挑戦を成し遂げたのは一匹の<個>でした。いっせーのせで、種全体が陸上生物に進化したわけではないのです。あるとき、力と勢いのある一匹の個が、勇気を持って限界に挑戦し、それを乗り越える。
こんなふうに、個の挑戦が種の限界を広げていくのが生物の歴史です。


種の限界を広げる個の挑戦ということを、われわれはトップアスリートのプレイに感じるのです。だから種の代表として限界に挑戦するトップアスリートに、私たちは心からの声援と喝采を送るんですね」

 

正直言ってその話を聞くまで、ぼくはあまりスポーツ観戦に熱心なほうではなかった。
自分の親戚や友人が出場するならまだしも、自分となんの関わりもない人たちがスポーツする様子をテレビで観ていても今一つ熱狂することができなかったのだ。
しかし、種の代表として肉体の限界に挑戦する個としてのトップアスリートというアイディアを毛利さんから聞いてから、世界大会などのテレビ観戦が俄然おもしろくなった。

 

4年に一度のサッカーワールドカップなどでもそうで、各国のチームの活躍をみると、「この人たちは世界中で誰よりもサッカーのうまい人たちなんだな」と思うとわくわくするし、「技術や戦術、トレーニング方法が日進月歩で進化しているということは、彼らは人類史上最高にサッカーのうまい人たちかもしれない」と考えると感動すらしてしまう。

 

今週末からリオ・デ・ジャネイロでオリンピックが始まる。

人類史上もっとも速く、もっともタフで、もっとも繊細で精密な身体能力を持つ人々がリオに集まる。
人類の身体能力の限界への挑戦を楽しみにしつつ、ぼくも負けずに自分自身のテレビ鑑賞能力の限界に精一杯挑戦したい。

 

しかし完成するのか選手村。オリンピックで能力の限界に挑戦するのは選手たちだけではない。現地の建設業者もまた、己の限界に挑戦中なのだ。がんばれ~。

(FB2014年7月12日を加筆再掲)

 

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