「今週のアンカーマンはB氏か」。
<本当はこんなに危ない「ステロイド」>の文字が躍る週刊現代最新号を手に取ってぼくはつぶやいた。
週刊現代ウオッチャーになって早2か月余り。
「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」シリーズ、なんと今回で第9弾だそうだ。今回表紙で名指しされている薬を列挙すると、オプジーボ、アマリール、ジャヌビア、ミカルディス、オルメテック、クレストール、リピトール、プラビックス、イグザレルト、コバシル、ラシックス、アクトス、メトグルコ、ザイロリック、ボルタレン、マクサルト、ネキシウム、ガスター、ピメノール。そして今回の目玉はステロイドである。よくもまあこんなに続くものだ。
にわか週刊現代ウオッチャーのぼくであるが、この特集シリーズ、どうも記事のまとめ役には二人の人物がいるのではないかとにらんでいる。
号によって記事によって、読後感が違うのだ。医者の目から見ると論理破綻している号と、表紙の見出しは過激だがまずまず一理ある号に分かれるのである。記事をまとめるアンカーマンが二人いるのではないかというのはそれが根拠である。
仮にそれをA氏とB氏としよう。まったくの推測であることを断っておく。
A氏は過激派・原理派で、医者を憎み薬を憎む50~60代の男性。この「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」特集の企画発案者で、おそらく現在はフリーランスの立場で仕事をしている。A氏はなにがあっても薬を飲むな、手術を受けるな、という論調で記事をまとめる。
A氏の記事では<医者が薬を売りたいだけ>(7月2日号p.171)<(手術は)カネのためにやっている>(7月9日号p.47)という『病院や医者は金のために患者を食い物にしている』という独断的・独善的なトーンの文章が多く出てくる。また、<コレステロール薬は無意味>(6月25日号p.56)など、『薬なんて効果がない』という思い込みが透けてみえるのもA氏の記事の特徴である。
A氏の記事の読後感は「どうしてそう極端なことを自信たっぷりに言い切れるのか」「まったくもって邪推にもほどがある」といった感じ。
勝手な推測だが、どうも全共闘世代のにおいがするのがA氏の文章だ。
さて当初の予想を大きく上回り、この特集のおかげで週刊現代の部数が伸びた(おそらく特集前の+8万部くらい?)ので、A氏は得意絶頂となった。雑誌が売れる限り目玉特集は無理しても続けなければならないのは少年ジャンプの人気連載と同じだ。好評第2弾、第3弾…と特集が続く。
しかしながらA氏編集の特集内容はつっこみどころが多く、どこかで特集を軟着陸させなければならない。そこで起用されたのがB氏だ。
B氏はA氏よりもやや若い穏健派で、「薬は効果もあるけど副作用があるからよく検討して使うべき」というトーンで記事を書く。たとえば今回の8月13日号でも、<(ステロイドは)夢のような効果があるものには、必ず強い副作用がある>という筋の通った文章を、この特集企画の発案者であるA氏の機嫌を損ねない程度にちょいちょい挿入してくるのがB氏の記事の流れだ。
B氏が主に編集した記事を読んだときの読後感は、「表紙や広告の見出しは過激だけど本文はそれなりに理にかなっている部分もあるじゃないか」というものだ。この人の文章はバランス感覚を感じさせる。たぶん講談社プロパーの社員の方ではないだろうか。
B氏の記事はA氏に比べて理知的だ。記事の中でも議論の論拠を示そうという姿勢であり、表紙の見出しに比べ本文はまずまず理にかなっていることが多い。
今号でも<内科医のジェフェリー・トッド博士が’02年、イギリスで行ったステロイドについての調査>(p.53)、<イギリスの大規模な疫学調査「ミリオン・ウィメン・スタディ」によれば>(p.201)と、読者がその気になれば議論の根拠を検索できるような記事を書いている。
また、今号の特徴は、今まであれだけ出てきた新潟大学の名誉教授や、ドクター・ハマーが出てこないことだ。おそらく新潟大学とドクター・ハマーはA氏の人脈なのだろう。
今週号で第9弾のこの『医者に出されても飲み続けてはいけない薬』シリーズ、いったいいつまで続くのか一晩寝て答えが出た。書籍化、単行本化するまで続くはずだ。
これだけ売上に貢献した特集なので、『緊急出版!あの大好評特集が本になった』という形で近日中に単行本化して書店に並べるつもりであろう。それまで無理やりにでもこの『医者の薬飲むな!』特集は継続され、単行本が出た暁には雑誌と本の相乗効果でセールスを伸ばす作戦だろう。お盆休みで印刷所がリーズナブルに使える時期に一気に印刷・製本して、8月末ころに書店に並べる作戦ではないだろうか。
おそらくA氏とB氏の綱引きは、そのまま単行本企画の主導権争いにつながっているはずだ。
それにしてもこの週刊現代の特集は、どこに着地するつもりなのだろうか。A氏が主張する、代替医療だのプラセボ効果だの怪しげな話を勧める方向に行きついてしまうのだろうか。それとも穏健派のB氏がなんとか着地を狙う「慎重に薬と手術を検討する」路線に行くのだろうか。
週刊現代ウオッチャーとしては興味津々だ。B氏がんばれ。よう知らんけど。
ことほど左様に、週刊現代の『医者の薬飲むな!』キャンペーンには記事のまとめ役のアンカーマンは傾向の違うA氏とB氏の二人いると思うのだが、中の人、いかがだろうか。
我ながら、どうしてそう極端なことを自信たっぷりに言い切れるのか、まったくもって邪推にもほどがあるなあ。
参考記事