ハフィントンポストの記事『誰がトランプに投票したのか』を読む。
記事では①トランプ支持者は決して「白人低所得」層だけではなかったこと、②若者はヒラリー支持、高齢者はトランプ支持だったこと、③ヒスパニックの29%がトランプを支持し、これは今までの共和党候補よりも高いこと、④投票率は53.1%と低かったこと(前回54.87%)と低かったこと、⑤都市部はヒラリー、郊外はトランプ支持だったこと、などが指摘されている。
①についてはすでに他メディアでも触れられている。
②について、ミレニアル世代の政治意識や、アメリカでも「シルバー民主主義」が世の趨勢を左右するのだという論評がこれから出てくるだろう。
③ヒスパニックがトランプを支持した理由として、筆者は、違法移民が増えることですでにアメリカに住んでいるヒスパニックの生活・立場が悪くなる(雇用を奪われたりする)ことを嫌ったせいではないかと考察している。
個人的には、ヒスパニックのマチズモ的文化(男は男らしく、女は女らしく)と男尊女卑的な発言を繰り返すトランプ氏が相性が良かったのではないかと思う。
完全にあとづけだけれど、アメリカの大統領候補を論じるときに、政策や信条はともかく「一緒にパブで飲みたいのは誰か」という視点がある。
その観点から行くと、ヒラリーよりもトランプと飲みたいと思う人がたくさんいた、ということになる(気持ちは分かる)。もっとも、トランプ氏は酒もたばこもやらないそうだけれど。
④について、世界最大の民主主義国アメリカの、しかも大統領選挙でも投票率が53.1%だということは記憶しておくべきだろう。
やっぱりですね、火曜日に選挙やって、行ける人は限られてる気がします。
余談だけど、「火曜日に投票やるのは国民の休日を奪わないため。投票に行くために仕事を休むことはアメリカでは法律で認められている。日本は遅れている」というコメントをネットで見かけたが、投票率は53.1%ですから実際には自分の仕事休んでまで投票行く人は決して多くないわけです。
法律で認められてることすべてが実際に行われているわけではないのは万国共通。日本だって法律で認められてなくても平気でサービス残業なんてものが存在するわけで。法律上は、サービス残業は違法ですから。
さらに脱線すると、ネットでは他国を過度に理想化して自国を貶めたり、その逆に他国を変に見下して日本スゲー、世界が日本にシビレル、憧れるッみたいなコメントが幅を利かせておりますが、いずれもバカバカしいことですね。他国も自国もありのまま、等身大に見てこそ冷静にものを考えられるってもので。
<外地で暮す日本人のいくらかは日本人でないかのような顔をし、いくらかは逆に物凄い国粋主義者になると言われるが、どちらもつまらないことである。>(北杜夫『どくとるマンボウ航海記(中公文庫)kindle版797/2860)
ネット空間で暮らす日本人も然り。
⑤について、本文中、トランプ氏のtweet、<The forgotten man and woman will never be forgotten again>というのが引用されていて、不覚にもグッときてしまった。
本文では<「忘れられた男女はもう二度と忘れられてはならない」>という訳をあてている。
トランプ氏は好きではないけれど、イメージを喚起する詩的な表現だと思う。ニューヨーク・タイムズによれば、1932年大恐慌のときにフランクリン・ルーズベルトが「forgotten man」という言い方を、1968年にニクソンが「forgotten American」という言い方をしているそうである。
80年代~90年代に青春を送った身にとっては、このフレーズはBon Joviの「リヴィン・オン・プレイヤー」の世界だ。
さびれた工業地帯、閉鎖された工場。生活に疲れた男女は、ともにパートタイムでレジを打つ。時間いくらの、アメリカン・ドリームとは程遠いマック・ジョブ。
IT長者は今日もボーダーレスな能力主義を叫ぶが、それはどこか遠い世界、ニューヨークやシリコンバレーという「別の国」の話。
ただマジメに正直に働き続けた自分たちは、いつの間にか忘れ去られてしまった。偉大なる祖国、アメリカから…。アメリカは、俺たちのものではなくなってしまった。
そんな男女のイメージが瞬時にして湧き上がるフレーズだ。
集会で熱狂的な支持者に囲まれてこんなフレーズを浴びせられた日には、ぼくだって思ってしまうかもしれない、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン。
ま、実際には迫害される側ですが。アジア系だから。
以前に会ったアメリカ人がこんなことを言っていた。
「ニューヨークと東京はそんなに変わらない。今や、カルチャーショックが生じるのは、ほかの国の大都市同士ではなく、大都市と田舎だ」と。
日本でも昔から強い政治家は農村部に地盤を持つ人が多い。
勝ったトランプ氏も、郊外に支持基盤を持つということは興味深い。トランプタワーとか建ててますけども。
これからどんどんトランプ大統領をめぐる論評が出てくるはずだ。誰かに言われると悔しいので、先にいろいろ言っちゃいました。