健康情報は究極の個人情報‐『広島叡智学園・生徒全員に装着型端末』に明確に反対する。

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「フランスに来た頃にやろうとしたことの一つに、日本型の会社の健康診断システムの導入があるんですよね」

フランスで長年活躍しているある人が言った。

「ほら、日本だと、会社が社員の定期健診をやるじゃないですか。ああいうのってフランスにないから、あの仕組みを“輸出”しようとしたんですね」

ほうほう、どうなりました?
「結局ね、うまく行かなかった。フランス人はめちゃくちゃ嫌がるんですよね、自分の健康状態を雇用主に把握されるの。本能的にダメみたい、そういうの」

2018年4月30日配信の中國新聞αによれば、2019年4月に開校する中高一貫の全寮制学校、広島県立叡智学園では、生徒全員にウエアラブル端末を身に着けさせ、心拍数や血圧や歩数のデータを収集し、教職員や保護者がインターネットで情報を見られるようにする、という。
明確に、反対する。

健康情報というのは、究極の個人情報だ。
個人にひも付けできる形で、強制的に、しかもデジタルデータの形でネットに接続して情報を流通させるなんて正気の沙汰とは思えない。

記事によれば、叡智学園のウエアラブル端末は、電子キーとして部屋の出入りに使ったり、売店で電子決済することにも使うという。

ということは、どこの部屋に入ったときに血圧や心拍が上昇するか、すなわち緊張や興奮しているかということがリアルタイムでわかる。同じタイミングで誰がその場所にいるかもわかるわけだ。二人の生徒が1対1で密室に居て、両方とも血圧・心拍が上がっていれば喧嘩しているか恋愛関係で逢瀬を楽しんでいるということになるだろう。
睡眠リズムのデータも取れるから、誰が授業中居眠りしているかも全てわかってしまう。

位置データと照らしあわせれば1日に何度トイレに行くかもわかる。
しかも全寮制となれば、生徒の生活はすべて監視されることになる。
中央監視塔から囚人たちの行動を一方的に監視する刑務所のシステムをパノプティコン(panopticon)というが、まさに電子のパノプティコンだ。

健康情報はおそろしい。

頻繁に居眠りをする生徒の中には、ナルコレプシーという特殊な病気の持ち主もいるかもしれない。
しょっちゅうトイレに行く生徒の中には、過敏性腸症候群が隠れているかもしれない。

遺伝的な背景から、血圧が高い生徒もいるだろう。

学園側は、健康情報を収集して早期に治療できるというかもしれない。しかし、24時間365日×6年間のあいだ強制的に集めたデータが、どう使われるかは誰にもわからない。


同学園の卒業生が進学や就職する際のことを考えてみる。

大学や企業は、せっかく採用するのだから健康な卒業生を採りたがるだろう。持病を持った生徒はちょっと、ということで、電子データに基づき、本人の知らないところで門前払いをすることも技術的には可能だ。
あるいは、同学園の生徒の兄弟が入試を受ける場合に、持病がある生徒の兄弟が敬遠されることだってありうる。

生徒全員のデジタルデータをインターネット上で流通させるというのもクレイジーだ。

デジタルデータというのは、必ず流出し、コピーされる。流出しコピーされた電子情報は、永遠に電子空間に漂い続ける。

流出した個人にひも付された健康情報を収集すれば、誰に生命保険を売り、誰に健康食品をセールスすれば効果的かがわかる。

中高6年間の健康情報に基づけば、生命保険加入の際に料金設定を生命保険会社の損しないように設定することもできる。

授業中に寝てばかりいた生徒は勤勉でなかろうという判断で、入社試験ではねることもできる。

何度でもいうが、健康情報は究極の個人情報なのだ。

 

ケヴィン・ケリー著『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』(NHK出版 2016年)によれば、現在ですら無数のモニタリングが個人の行動を監視している。
日本の例を挙げれば、道路にはNシステムという自動車ナンバー自動読み取り機が設置されているし、携帯電話の通話記録も電話会社に残っている。Tカードやpontaカードではどのカードの持ち主が何を買ったかのデータを取っているし、suicaパスモはそのカードの持ち主がいつどこをどう移動したかをモニタリングしている。googleでどんな言葉を検索したかのデータ、facebookで書き残したことがらも全て(その気になれば)追跡できる。

<こうした記録の流れをすべてまとめることができたら、その機関がどれだけの権力を握れることになるかを想像するとショッキングですらある。それらをつなぎ合わせるのが技術的にどれだけ簡単かが、そのままビッグブラザー出現を恐れる根拠となるのだ。>(上掲書 kindle版 5245/6881あたり)

もう一度書く。
広島県立叡智学園では、生徒全員に装着型端末をつけさせ、血圧や心拍数、睡眠などの健康情報を収集することを計画しているという。装着型端末は電子キーの働きも持ち、部屋の出入りに使ったり、売店で電子決済をする機能も持つ。装着型端末で収集された情報の一部は、ネットを通じて教職員や保護者に届けられる計画とのことだ。

自由意志に基づかない24時間365日6年間の監視およびそのデータのネット上流通と蓄積なんてアイディアは、地獄の扉を開くようなものだ。

明確に、反対する。

叡智学園の担当者の方には再考を願いたい。

学校が開くのは、地獄の扉ではなく、希望の扉であるべきなのだ。

 

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