夏と幸せと、死。

「幸せって何かって?うーん…」
『世界一幸せな国』デンマークで、ぼくはある老人に聞いてみたことがある。


「幸せね…。
例えばね、今、わたし達はコーヒーを飲んでいる。
ドーナツをつまみながら、テーブルをはさんで、こうして話している。
…だが、わたしの友達の多くは死んでしまった。
彼らは死んでしまった。わたし達は生きている。
死んでしまった彼らのことを思い、生きているということを考える。
コーヒーを飲みながら、ドーナツをつまみながら、日本から来た君と、幸せについて話し合っている。
…幸せとは、単純なものではない。…幸せとは、時に苦いものだ」

 

日本では、夏には亡くなった人たちが還ってくる、とされている。
お盆の時期に亡くなった人が還ってくるとすることで、生きている者たちは自分たちがまだ生きていることを確認し、幸せの意味を思う。
毎年夏に生きている者が死者を迎える行事を行うことで、もし自分たちが死んだとしても、思い出してくれる人がいる限り自分の魂は地上と結ばれていると安心することが出来る。
英語の「宗教」religionという言葉の語源は、ラテン語で「re+ligare、再び結びつける」こと、だという。

 

ぼくは特定の宗教を持たない不信心者で、ジョン・レノンだって「天国は無い」って歌ったけれども、7月の終わりになって遅ればせながら気温を上げ始めた朝の大気の中で、それでもやっぱり、今年の夏にはあの人やあの人がしばしの間、地上に還ってきてくれればよいと思う。

 

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