「pre-mortem/事前検死」とは~その場しのぎの仕事のしかたからどう脱却するか.3

〈愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る。〉(『ナポレオン言業録』岩波文庫 1983年 p.263)

予想外の未来に運命を狂わされるくらいなら、自ら選んでひととき狂人となり未来を語っておく手もある。

 

「何かあったら困るからとりあえず人手を確保しておく。実際に何かあったらその場にいる人がその場の判断でなんとかする」という仕事のやり方から脱却したい、という話をしている。
考えうる未来シナリオを3つくらい用意し、それぞれの場合どう動くか前もって考えておくという手法に触れたが、ある意味さらにルナティックでクレイジーなやり方がある。
「pre-mortem/事前検死」だ。

 

〈事前検死は非常にシンプルな手法だ。まずチームのリーダー(プロジェクトの責任者とは別の人物)は、メンバー全員に「プロジェクトが大失敗しました」と告げる。メンバー次の数分間で、失敗の理由をできるだけ書き出さなければならない。その後、プロジェクトの責任者から順に、理由をひとつずつ発表していく。それを理由がなくなるまで行う。〉(マシュー・サイド『失敗の科学』ディスカバー・トゥエンティワン 2016年 p.326。名著)
事前検死というくらいだから、これをプロジェクトを行う前にやる。
平たく言えば、プロジェクトが大失敗し得る要素を事前に徹底的に洗い出しておく、ということだ。
もちろん、〈事前検死の目的は、プロジェクトの中止ではなく強化にある。〉(同ページ)

 

事前に「if not, why not./うまくいかないとしたら、なぜなのか」を考えつくし、その失敗要因を排除したり対策を打ったりしておくというのが「事前検死」の手法である。
ライバル社の新規事業に自分のビジネスを脅かされる前に、自分でその新規事業をやってしまえという「Destroy your business」の精神と通じるところがあるかもしれない。

 

おそらくこの「事前検死」の手法導入の障害となるのは、我が国の「言霊信仰」だろう。「そんなおっかないことばっかり言ってると、ほんとに起こってしまうよ」というヤツだ。
こればかりはどうしようもないから、このままじゃあかんと気づいた人から「未来を語る狂人」となって自分が正しいと思ったことをやっていくしかないですね。

 

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