先が見えない時には後ろを見ればよい。
この3ヶ月でどれだけ「コロナ」という単語を口にしたかわからない。「コロナ」という単語を商標登録して誰かが口にするたび課金すれば今ごろは相当な資産家だったが世の中ままならぬ。
コロナ禍の中、ぶっちゃけ生きてるだけで気疲れする。
唯一絶対に大事なのは肉体的にも精神的にもサバイヴすることだ。そのためにはなんだってする。
気疲れしている時というのは精神的なエネルギーが枯渇している。そういう時に無理に新しいことをしようとしてもうまくいかない。余分に精神的なエネルギーを消費するからだ。
だからそういう時には「コウスティング」がよろしい。
コウスティングはcoastingと綴る。健全な退行現象のことだ。
〈この単語は、元来舟が大洋に乗り出さずに沿岸航海をすること、あるいは、自動車がアクセルを踏むのをやめて惰力で走ったり、飛行機がエンジンをとめて滑空することなどを言う。これを人間に当てはめた場合は、知的な努力をやめて、しばらく無努力の状態にもどることである。〉(渡部昇一『知的生活の方法』講談社現代新書 昭和五一年 p.188)
上掲書によれば哲学者ヴィトゲンシュタインはコウスティングとしてケンブリッジ大学で講義をしたあと三文映画を見ていたという(p.186)し、カントは毎晩眠るときに毛布にくるまって胎児のような恰好で寝ていた(p.188)。またダーウィンは研究のあと妻に小説を読んでもらい、オックスフォードの数学者だったドジソンはコウスティングの一環として『不思議の国のアリス』というおとぎ話を空想したという(p.189)。
上掲書によればコウスティングはマズローが言い出した概念だという。マズローの『完全なる人間』には思ったほど詳しく書いてなかったので、コウスティングについての原著をご存知のかたはお教えください。
今のコロナ疲れのなかでは平静を保つにはただでさえ精神的努力を要する。
だからひとときその努力を止め、幸せだった子ども時代(言うほど幸せでもないかも知れないが、不幸せでもなくフツーだった。まあ、なんでもないようなことが幸せだったと思う、という虎舞竜的なヤツですね)に帰ったりして健全な退行現象であるコウスティングを行う。これにより、心身を健全に保つのだ。
というわけで、『ルパン3世』のサントラを借りてみるなどのコウスティング中。今時はダウンロードやサブスクなんだろうが、ほっておいて欲しい。ぼくはレコ屋やTSUTAYAや『友&愛』を愛しているのだ。『友&愛』もう無いけど。
*コウスティングの数々。