色川武大『9勝6敗』戦略考(その8)

相変わらず『9勝6敗』戦略について考えている。

 

「これはね、下座行(げざぎょう)なんだよ」
一心不乱に壁を磨きながら、その人は言った。

 

街の一角をキレイにする会(仮)みたいなところに参加させてもらったことがある。
ぼくの誤解や浅薄な理解で迷惑をかけるといけないから仮称としておく。
街の一角をキレイにする会(仮)は有名な組織で、全国に支部があり、中小企業の社長や議員の人なんかもメンバーにいるような大きなムーブメントだ。ファウンダーである会長に心酔する人も多い。
メンバーは休みの日の朝から街の一角を、ほんとうに徹底的に磨きあげる。

 

「ある地方では、荒れた高校の先生がたがこの運動に参加した結果、非行少年や不良がいなくなりました。」
メンバーの一人が言った。


本当かなあ、と思ったが、こういうことらしい。
上から目線で非行少年や不良を抑えつけ、威張っている教師たちが、汗まみれ泥まみれになって必死で街の一角をキレイにしている。それも1日だけではなく何日も何日も。
それを見て非行少年や不良も改心する、ということのようだ。

 

この街の一角をキレイにする会(仮)には、地域の名士である老舗企業の社長や地方議員も多く参加している。
世のため人のため地域のためというのが目標であるし、その志は純粋なものだ。

 

ただ物事をナナメに見ると、やや強引だが『9勝6敗』戦略の文脈に乗るかもしれない。
勝ち星を「投入した労力〈 直接的に得られるメリット」、負け星を「投入した労力〉 直接的に得られるメリット」と仮に定義すると、忙しい中で時間を削って街の一角をキレイにする会で汗水垂らすというのは後者だ。

 

本業で勝ち星が溜まりがちになるポジションの人というのは、こういう形で星を世の中に還元したくなるのではないか。こうした分野で星を還元する利点は、何よりもコントローラブルということだ。
コントローラブルな分野で自主的積極的に星を還元しておくことによって、一番大事な勝負どころで遠慮なく勝ち星を獲りにいけるのではないか、というのが今日の話の論旨である。


真実は如何に。
(続く)

 

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