病院経営万事研修その4-オペ室看護師はフライドポテトの夢を見るか。

〈サプライヤーの一人が、ある日私にこう言った。「レイ、君はハンバーガービジネスを行っているんじゃない。フライドポテトビジネスだ。何が秘訣かは知らないが、君のところのポテトは、このあたりでは最高だよ。これを求めて客はやってくるんだ」〉(レイ・クロック他『成功はゴミ箱の中に』プレジデント社 2007年 p.127)
 
外食産業からたくさんのことを学びたい、という話を書いている。
 
外食産業では、シェフや板前、職人などの「個人プレー」を店全体やチェーン店ならチェーン全体での「チームプレー」に昇華するノウハウがあり、それは時として「個人プレー」に走りがちな医療業界にとって参考になるのではないか、という仮説に基づく。
世界最大の外食産業といえばマクドナルドである。
 
マクドナルドは、もともとモリーとリチャードのマクドナルド兄弟が1948年にカリフォルニアで始めた(前掲書p.115など〕。
テイクアウト中心のハンバーガーショップだったが、その経営権を買い取って全米から全世界へと広げたのがレイ・クロックだ(前掲書の副題は『世界一、億万長者を生んだ男』である。「世界一の億万長者になった男」ではなく、フランチャイズ制により世界中にマクドナルド店のオーナーを生んで彼らを億万長者にした、という意味で、これはちょっとシビれますね)。
レイ・クロックがマクドナルド兄弟の手法を学ぶ上でつまづいたことの一つがフライドポテトだった。
 
〈(略)悩まされたのはフライドポテトだ。一向にうまく揚がらない。私はエドに、自信たっぷりにマクドナルド製法のフライドポテトを説明していた。まず、ジャガイモの皮はできるだけ薄く剥く。少し皮を残した状態にすれば、風味が逃げない。次に、シンクに冷水を張って、その中にポテトを入れる。袖を肘までまくり上げ、外科医が手術をするときのように手を消毒し、水がでんぷんで白く濁るまで両腕でゆっくりとかき回す。排水後は、もう一度ポテトをよくすすぎ、水気を十分に切ってからフライバスケットに入れる。新鮮な油でこんがり揚げれば、美しいきつね色のフライドポテトの出来上がり……。
……そのはずが、出来上がったものは想像とおよそ懸け離れていた。何を間違えたのだろうか。調理工程を見直してみたが、間違いは見つからない。〉(前掲書 p.124-125)。
ブレイクスルーは、丹念な観察と研究によりもたらされた。

個人プレーをチームプレーに昇華するノウハウを知りたい、というところから、外食産業の雄マクドナルドの話をしている。
 
レイ・クロックがモリーとリチャードのマクドナルド兄弟からマクドナルドの全米展開の権利を買い取ってから、まずぶつかったのがフライドポテトの壁だった。カリフォルニア州サンバーナーディノのマクドナルド兄弟の店で食べたフライドポテトの味が、どうしても再現できないのだ。
 
〈耐え難き事態だった。あのマクドナルドの最高の味の品質をそのまま数百店でも可能にするという私の夢は、初めの一歩でつまずいたのである。〉(レイ・クロックほか『成功はゴミ箱の中に』プレジデント社 p.125)
サンバーナーディノの美味しいフライドポテトという個人プレーを、チェーン全体というチームプレーにするところでつまづいたのだ。ブレイクスルーは、丹念な観察と研究からもたらされた。
 
〈原因を探ろうと、ポテト&オニオン協会に問い合わせたが、彼らも最初は原因がわからなかった。ところがある日、協会の研究者に、実際にサンバーナーディノ店と同様の買い付け方から調理法まで説明していたときのことだった。私がアイダホポテトを金網を張り巡らせた大きな木箱に入れて、日陰で保存する説明にさしかかったところ、「それだ!」と彼は叫んだ。ジャガイモは掘られたときはほとんどが水分だが、乾燥によって糖分がでんぷんに変わることで、味が上がる。マクドナルド兄弟は、このことを知らなかったが、たまたまフタのない容器にジャガイモを入れ、砂漠特有の乾燥した空気に触れさせることによって、自然乾燥させていたのだった。
原因がわかると、即座にシカゴでは独自の対処法を考えることにした。地下室に貯蔵する際、最新の箱はいちばん奥へ、古いものを手前に置くようにし、巨大な扇風機を設置して通風を良くするように努めた。これを見たエドは感動し、「世界でいちばん甘やかされているジャガイモですね!料理するのがもったいないくらいです」と言った。〉(前掲書p.125-126。文中のエドはレイ・クロックのゴルフ仲間の義理の息子で、チェーン第一号店の店長)
 
静岡のある病院に見学に行ったことがある。
その病院では、手術の件数が多すぎてこなしきれないという課題をかかえていた。そこで病院はハンバーガーチェーンと同じ頭文字の大手コンサルタント会社に依頼して業務改善の知恵を求めた。
コンサルタントは、ストップウォッチ片手につきっきりで業務の流れを観察し、手術道具の標準化と事前準備という改善案を提示した。
それまでは、手術を行うドクターによって使う道具がそれぞれ違い、手術を担当するドクターが指示する道具を逐一手術場の看護師が取り出すという形だったが、それだと時間がかかる。
道具を標準化し、事前にセットしてパッケージングしておくことで手術と手術の間の時間を短縮し、一日にこなせる手術の件数を増やしたのである。
「一日の手術件数が増えて、ドクター側から苦情とかないんですか」と聞いたら、「手術と手術との間が間延びしないので、テンションが保ててノれるという反応です」とのことであった。
この話を聞いたのは10年以上前で、今ではこの方式はほかの病院にも広がっているはずだ。
 
教えてもらったのはこの件だけであったが、ほかにも様々な改善案がとり入れられたはずだ。要は医療業界にもまだまだ業務改善の余地はあり、それらの改善はやはり現場業務の丹念な観察と研究によりもたらされるはずだ、というようなことが言いたい。
(続く)

 

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