無茶苦茶な人というのは面白い。常人には思いもつかないことをさも当然のようにやってのけ、その逸話は人類の歴史に彩りを添える。
今現在マイブームの無茶苦茶な人といえば、藤田田氏である。言わずと知れた日本マクドナルドの創業者だ。
以下、藤田氏の著書『ユダヤの商法(新装版)』(KKベストセラーズ 2019年 kindle版)に基づいて書く。
藤田氏は大阪生まれで旧制北野中学、東大法学部出身。GHQで通訳のバイトをしたのがきっかけで輸入業者として起業する。
はじめはハンドバッグやアクセサリーの輸入をしていたが、あるとき〈日本人は総体的に蛋白質のとり方が少ない。だから、背は低いし、体力がない。国際的な競争に打ち勝つには、まず、体力から作らなければならない。〉(上掲書kindle版340/2464)と思い立ち、ハンバーガー屋をすることを決める。日本人に、ハンバーガーで蛋白質を摂らせようという狙いである。
上のパートに引き続き、あの有名なフレーズがやってくる。
〈日本人が肉とパンとイモのハンバーガーを、これから先、一〇〇〇年ほど、食べ続けるならば、日本人も、色白の金髪人間になるはずだ。私は、ハンバーガーで日本人を金髪に改造するのだ。〉(同ページ)無茶苦茶である。
今よりもポリティカルコレクト的にルーズな時代の本であるので、割り引いて読んでいただきたいが、こんなフレーズもある。
〈「ユダヤ商法に商品はふたつしかない。それは女と口である」〉(上掲書kindle版301/2464)
これは、女性をターゲットにした商売と、口に入るもの=食べ物を扱う商売は、必ず当たる、という意味だそうだ。
藤田氏がもし今ご存命なら、誰よりも早くタピオカ屋を始めたはずである。
日本マクドナルドの創業者である藤田田氏に心惹かれたシーンは、ユニクロ創業者の柳井正氏との出会いの場面である。
〈柳井 僕も藤田さんとは面識があるんです。ソフトバンクの社外取締役になったとき、前任者が藤田さんでした。引き継ぎでお目にかかったら意気軒昂で。話し出したら止まらない。僕は藤田さんの演説に耳を傾けるだけ……。別れ際に「おお、柳井くん、キミにいいものをやろう」とハンバーガーの無料券を三枚くれた。〉(レイ・クロック他『成功はゴミ箱の中に』プレジデント社 2007年 p.344.巻末の柳井正氏と孫正義氏の対談より)
藤田氏の著書『ユダヤの商法』を読むと無茶苦茶な書きっぷりで面白い。
同書によれば、藤田氏は、昭和42年の総選挙で、共産党候補の松本善明氏を応援した。なぜか。
松本氏と藤田氏が、大阪の北野中学から東大法学部までずっと一緒に学んできたから、ではない。
松本氏の当選祝賀会で藤田氏はこんなスピーチをしたという(藤田田『ユダヤの商法』kindle版1818/2464)
〈「現在、世界はアメリカを中心とする自由陣営とソビエト(現・ロシア)を中心とする共産主義陣営に二分されています。ご承知のように、日本はアメリカにベッタリくっついている状態であります。私はこの状態はまだまだ続くと思いますし、続いてもらいたいと思っています。というのは、日本にとっても、私自身にとりましても、あと一〇〇年ぐらいは日本がアメリカにくっついていた方がトクだからであります。そのためにも日本の共産党はもっと議席をふやしてもらいたい、と念願致しております。
なぜかと申しますと、日本国内に共産陣営側の政党があり、それがある程度強くて、日本の政治をアメリカの言いなりにならないようにする方向に作用しておればおるほど、アメリカは日本に甘い顔をし、手をさしのべざるを得ないのであります。
日本へ無愛想な顔をして、日本がソ連の方へ傾いたらそれこそ大変だからであります。そのアメリカの甘い顔がもたらす甘い汁を、たんまりといただくのが私の商売であります。日本が駄々をこねればこねるほど、アメリカは日本を大切にしてくれます。
つまり、日本という体の中に、共産党というバイ菌がいて、それが暴れれば暴れるほど、アメリカという医者は日本へ良薬を与えてくれるのであります。
その駄々をこねる役割り、バイ菌の役割り、私は、日本の共産党にそれを期待しているのであります。
私が選挙資金を一部融通したのは、ソロバンずくで私の商売にほかならないのであります。
松本君は当選し、みごとにバイ菌のひとつとして培養されました。私の投資は成功したのであります」〉
無茶苦茶である。
このように、無茶苦茶な人というのは面白い。ただし自分が安全圏から眺めている限りは。というわけで、Netflixでドラマ化希望。