『なりたい自分』のための時間投資と、『ありたい自分』のための時間投資は異なる。
『なりたい自分』のための時間投資はいわば新規事業用の資金のようなものでまとまった量の確保が必要だが、『ありたい自分』のための時間投資は日常生活用のお小遣いみたいなものだ。
朝のカフェで一杯のコーヒーを味わう。友人や家族とちょっと長めに語らう。大好きな曲を夜中に1曲聴く。
平日に15分捻出することで、『ありたい自分』は実現できる。そんな平日の一日を24時間15分とするような時間の使い方について考えている。
唐突だが、誰かが廊下で5000円札を燃やしていたらどうするだろうか?
もったいないからやめさせないだろうか。
そうした5000円札が次々と燃やされている場所がある(あった)。大学病院の廊下だ。
今はどうか知らないが、10数年前の大学病院では、医局と呼ばれる医者の溜まり場の前の廊下で、製薬会社の情報提供担当者や営業マンがずらっと並んでいる光景が日常であった。
MR、Medical Representativeと呼ばれる彼らは医局を出入りする医者を捕まえて、医薬品の情報提供をするために何時間も廊下で“出待ち”をする(ように会社から命ぜられる。『白い巨塔』の時代と違うから、してよいことしてはならぬことは厳格なガイドラインがあり、そこを越えないように各社は仕事していると申し添えたい)。
製薬会社のエリート社員は高給取りだが、その高給取りが何時間も無為に“出待ち”をしているのが、ぼくは耐えられなかった。
エリートMR氏の年俸を、簡単のため1000万円とすると、週40時間×年50週で割ればMR氏の時給は5000円となる。
高学歴高スキルのMR氏が大学病院の廊下で無為に1時間医者を“出待ち”するのは、5000円札を燃やしているのと同じなのだ。
そう思って、ぼくは自分のクリニックではMR氏と会うときは必ずアポイントメントを取ってもらうこととしている。
アポイントメントを取ることはこちらの時間を無駄にしないためにも有用だ。そのぶんsaveできる数分〜10数分を使って冒頭の『ありたい自分』のために回すことが出来る。
「銀座のユダヤ人」と自称した藤田田氏によれば、ユダヤの商法では必ずアポイントメントを取るという。アポイントメントとった上で、互いに有用な取引をするのだそうだ。
〈ユダヤ商人の言葉を借りると、「商売とは、急行列車のすれ違いを利用してのホンの瞬間的な逢瀬に成立させるようなものだ」ということになる。〉(藤田田『ユダヤの商法』新装版 KKベストセラーズ 電子版発行2019年 kindle版p.60)