コロナワクチンが余ったから破棄、なんてバカげたことが起こる理由。

「アメリカの医療制度が、コミュニタリアニズムとリバタリアニズムに基づいていることはわかりました。では、日本の医療制度はどんな理念に基づいているのでしょうか?」
ぼくがそう聞くと、間髪入れずにTさんが答えた。
「それはね、エガリタアニズムですよ」
 
J・S・ミルと酒と議論を愛するTさんは間違いなく当時の医療を巡る水面下のキープレイヤーで、その時も勉強会の帰りに一緒になって聞いてみたのだった。
 
エガリタリアニズム、Egalitanism、平等主義。
全ての国民に平等に医療が行き渡るように、全てが動いてゆく。抜け駆けは許されない。誰かが抜け駆けして得するくらいなら、みんなで平等に損をするほうを選ぶ。
日本国の設計思想がどのような理念に基づいているのかは明文化されていないが、この日本の医療はエガリタリアニズムに基づいて回っているというのはかなり説得力があると思う。
伝聞だが、東日本大震災のときの避難所でも、人数分のおにぎりがそろわなかったゆえに配布しないかったor配布をはばかられた例があるようだ。
 
先日、とある自治体で、コロナワクチンが余ったため、余ったぶんを破棄したというニュースがあった。

www.tokyo-np.co.jp

正直、余ったぶんはそこらへんの人に打ってしまえばいいのにと思う。コロナワクチンはかなり特殊で、1本のビンに6人分の薬が入っている。薬を医療用食塩水で一度溶かしたら、5~6時間以内に使わないとダメになってしまう。コロナ拡大を止めるためには一人でも多く、少しでも早くワクチン接種を広めるしかない。だから余ったワクチンがあれば究極的には誰でもいいから打ってしまったほうがよいのだ。
だが実際に余ったワクチンをそこらへんの人に打ったとしたら、一定数の批判が湧き起こるだろう。バカげたことだ。

わが国の、慎重に慎重を重ね互いに重箱の隅をつついてなかなか進まないワクチン接種の様子とアメリカを比べると、大規模コロナワクチン接種って
「とにかくバンバン打っちまえ!
本人確認?できることやりゃええやろ。
余っちまう?キャンセル待ちで並ばせとけ!
2回目来ない?そんなん自己責任、打たないよりええで!
来ないヤツがいる?打ったら1億円やる!ストリップ場で打て!」
って国に向いてますね。
 
「ヘイヘイヘイヘイ!
ピープル・ダイイング・ザン・WW2!
ドント・ウォーリィ・アバウト・スモール・シングス!
レッツ・ドゥー・イット&ゲット・ソーシャル・イミュニティ!
アーンド、レッツ・エンジョイ・ビア・パーリィ・イン・ディス・サマー!!!」みたいな。
まあここではアメリカはプラグマティズムとハックな国という位置づけです。
 
常々、コロナとの戦いは「戦争」だと思っている。そしてコロナウイルスという自然との戦いに、勝利はなく敗北だけがある。2021年5月23日時点で、コロナにより12260人の方々が亡くなられた。それぞれに人生があり、家族があり、友人や恋人がいた。そんな12260人の命が失われて、これが敗北でなくてなんであろうか。
 
ワクチンによりコロナウイルスとの戦争は、停戦の日がおぼろげながら見えてきた。
第二次世界大戦の敗北のあと、日本は価値観が変わり復興した。コロナ敗戦のあとに悪しきエガタリアニズムから脱却し、より良い理念に基づく復興が行われることを願ってやまない。

 

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