眠れる夜のために。

「寝つきのいい男はダメだ。仕事のことを四六時中考えて、“ああでもないこうでもない”と悶々として眠れなくなるようじゃなきゃ、出世なんかできないよ」
恰幅のよいその人はそう言うと、自信満々に笑った。
寝つきのよい僕も、つられて愛想笑いをした。
なるほど、そうかもしれない。
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
僕は唐突に、流されてゆく氷山に取り残されたペンギンのことを考えた。絶対の孤独。
まあいいさ。
生きている間には手に入らないものがある。完璧な睡眠もその一つだ。
完璧な睡眠などない。完璧な絶望が無いようにね。
やれやれ。
僕はコーヒーを温めた。
 
寝つきがいい男が出世しないかどうかは知らないが、睡眠は大事だ。大人の階段を登るごとに、睡眠の大切さは確信に近づき、もはや信仰に近いものとなっている。
良質な睡眠を確保するために数年前から行なっているのが、午後5時以降のカフェイン断ちだ。
これは今のところうまくいっていて、睡眠の質が上がった気がする。
唯一の欠点は、冬の夕方から夜以降に口さみしくなった時に口にする飲み物が無いことだ。
夕方からカフェイン断ちをする身からすると、自販機で売っている温かいものの大半にカフェインが入っている。
これは最近、「一風堂のラーメンスープ」や「だし」などの飲料を飲むことで解決した。
 
良質な睡眠のための大敵がスマホである。
スマホは光と情報の洪水を与えてきて、しかも依存性がある。
パソコンと違ってスマホは、容赦なく寝床に忍び込んでくる。
 
寝る前のスマホ断ちに関しても最近解決策を見出した。
感覚の強制シャットダウンである。
寝床に入ったらホットアイマスクや蒸気アイマスクで目を覆ってしまうのだ。
この方法は借金玉氏の本で学んだ(『発達障害サバイバルガイド』p.118〜121および『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』p.238〜240)。
これは猛烈に効果的であった。
 
感覚をシャットダウンするならホットアイマスクや蒸気アイマスクでなく普通のアイマスクでもいい気がする。
しかしながら想像すると、普通のアイマスク程度では、寝床スマホの誘惑に勝てないのではないだろうか。スマホを見たくなって普通のアイマスクだと簡単に外してしまうはずだ。
 
これがホットアイマスクだと温かさという「快」がスマホの誘惑に勝つ。
特に僕自身は貧乏症のところがある。だからまだ温かい使い捨てホットアイマスクを捨ててまでスマホを見ようとは思わないのだ。
 
良質な睡眠を取るために、借金玉氏はほかにも寝具への重課金を勧めている。
これまた効果的に思われるが、寝具の重課金の話はまた別の機会にすることとしたい。
あまり話が長くなると、せっかく冒頭で温めたコーヒーが冷めてしまう。