2016年11月8日、アメリカで大統領選挙が行われる。
細かく言うと、行われるのは大統領を選ぶ人、選挙人を選ぶ選挙だ。
全米で538人の選挙人を選び、選ばれた選挙人たちが12月に大統領を選ぶ。それぞれの州の選挙人数は、各州の上院と下院の議員数の合計と等しい。
選挙人を選ぶ選挙は、11月第1月曜日の翌日、火曜日と決まっている。
大統領選挙の予備選の最大の山場の日も火曜日で、「スーパーチューズデイ」と呼ばれる。
このように、アメリカでは大きな選挙は火曜日にやることが多い。
その理由をご存じだろうか。
答えは、「国土が広く、移動に時間がかかるから」。
その昔、馬や幌馬車でアメリカ人が移動していたころ、広大なアメリカ全土から投票所に行くのには大変時間がかかった。
ワイオミングの山奥やノースダコタの大農場から出発したら、下手したら投票所につくまで丸1日かかる。週のはじめの月曜日に家を出ても投票所に着くのは翌日の火曜日だ。
だから、アメリカでは大きな選挙は火曜日にやる。
日曜日に家を出ればいい?バカなことを言ってはいけない、日曜日は神のおつくりになった安息日ではないか。余計なことをしてはいけない。
この話をはじめて知ったのは、東大からプロ野球に入った小林至の本『アメリカ人はバカなのか』(幻冬舎文庫 平成15年 p.96-97)だった。
俗説かと思って調べたら、アメリカには『Why Tuesday?』というNPOまであって、選挙日を火曜日から週末に変えましょうという啓発活動をしている。
www.whytuesday.org
TEDでやった代表のプレゼンはわかりやすく、一見の価値がある。その中で上記NPOはギングリッチやジョン・ケリーといったいろんな政治家に「どうして選挙を火曜日にやるんですか?」とインタビューしているが、誰も答えられない(答えられない政治家ばかり出している可能性はある)。
NPO団体、Why Tuesdayによれば、火曜日に選挙をやるなんてことは独立宣言にも合衆国憲法にも書かれていない。1845年の「バカげた法律」に書かれている。
彼らはこれを変えて、選挙は火曜日ではなくて週末にやるように訴えている。
何故か?
前掲書の中で小林至はこう書いている。
<(略)今でも火曜に固執している理由は、伝統に名を借りて庶民を排除しているだけだ(略)>(p.96)
多くの勤め人たちの会社は火曜日は休みではない。仕事中に抜け出して投票に行けるほど暇な職場は少ない。そうなると、火曜日に投票に行けるのは大農場主や自営業者、熱心な政治支援者や宗教右派、リタイアした人や学生、失業者が中心になる。
「フツーの勤め人」は現実問題として投票に行けない/行かない。だから政治家の政策も投票に来てくれる人が喜ぶもの中心になりがちで、「フツーの勤め人」は後回しになるのではないかという指摘だ。
2012年の「Why Tuesday?」のインタビューでも、代表のJacob Soboroffは「15の州(*インタビュー当時)では事前投票ができず、火曜日しか投票できない。シングル・マザーやシングル・ファーザー、2つ3つ仕事を掛け持ちしている人はどうなる?」と問題提起している。
アメリカに住んだことがないのでリアルな感触はわからない。「フツーの勤め人」がどれくらい投票に行くものなのか、身近にアメリカ人がいるかたは聞いてみて教えてください。
横江久美『崩壊するアメリカ』(ビジネス社 2016年)によれば、これからのアメリカを動かしていくのは1980年から2000年に生まれたミレニアル世代だという(同書 第5章)。ミレニアル世代はソーシャル・メディア世代で、この世代の代表はレディー・ガガだと横江(公人なので敬称略)は指摘する。
ミレニアル世代は個人を大事にする「私主義」でありながら、ソーシャル・メディアを駆使して仲間とつながる「仲間主義」だ。彼らは政治的な不公正に敏感で、積極的に社会支援を行う傾向にあると横江は述べる。
次の大統領が誰になるか興味深い。さらに先の話になるが、ミレニアル世代がさらに台頭する2020年には投票日が火曜から週末に移っているのだろうか。
彼らの「Vote This Way」は、どちらへ向かうのだろう。
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