とある少年の物語。

とある国に、とある少年がいた。

少年はとても賢かったが、なぜだかいつも一人ぼっちだった。

少年は歴史に名を残したかった。

一生懸命に勉強し、その国で最も難しい学校に入った。

まわりの者は彼を優秀とほめそやしたが、ひとしきり彼をほめたたえたあと、人々はそれぞれ自分の家に帰っていった。

気が付けばやはり少年は一人ぼっちだった。

彼は満たされなかった。

 

青年となった彼は医師となった。

一生懸命に研究し、立派な博士となった。

たいしたものだとまわりの者は言ったが、夜になると彼を残して宴に興ずるのだった。

青年となった少年はやっぱり一人ぼっちで、やっぱり満たされなかったのだった。

 

青年となった少年はいつしか法を学び、法律家となった。

医者だけでも忙しいのによくもまあここまでとまわりの者はびっくりしたが、彼はそれでも満たされなかった。

昔の判例を調べたりして気が付くと夜更け近くになることもしばしばだったが、ふと書物から目を上げてみると、彼はやっぱり一人ぼっちだった。

 

青年になった少年は壮年となり、右にいったり左にいったりしながら、気が付けばその国のとある地方の知事となった。

あっちに行ってもこっちに行っても彼を応援してくれる人々がいたが、応援してくれる人々に囲まれてもやっぱり彼は一人ぼっちだった。

彼はなぜだか満たされず、とあるサイトを利用した。

 

出会った女は優しかった。

「すごいですね」と言ってくれた。

医者で法律家で知事だなんて、ほんとうにすごいですねと言ってくれた。

彼は少しだけ満たされた気がした。

二人っきりで目を見てほめてもらえるなんて初めてだったし、女は美しかったし、生まれてこのかたずっとぽっかりと空いていた虚ろな穴が、少しだけ埋まる気がした。

女の優しさはこの上ないもので、すでに中年となっていたとある少年は、とても嬉しかったのだ。

女の優しさが時間限定のものだったとしても。

 

二人っきりの秘密がどういうわけか、その国の人々の知るところとなった。

人々の模範となるべき知事の秘め事は、良識ある人々の眉をひそめさせた。

とある日の夕方、今や中年となっていたとある少年は知事を辞めることにした。

とある少年の名はおおいに人々の口にのぼった。

彼は歴史に名を残したのだ。

 

記者会見をやり遂げて部屋に帰ると、虚ろな目をした彼は女に電話をした。

電話番号はもう使われておらず、彼はやっぱり一人ぼっちだった。