歳なりに歳をとる(2)ナナメの関係性とセイントおじさん。

「歳なりに歳を取る」話。
 
良い地域には、ナナメの関係性があるという。
親子や上司部下の関係性をタテ、同年代の友人や同僚との関係性をヨコとすると、子どもが学校に行くときに近所のおっちゃんが「ヨッ!元気か」と声をかけて見守るようなものをナナメの関係性と呼ぶ。
ナナメの関係性では直接の利害関係も責任もない間柄の、年代の違う人同士がゆるく薄くつながる。そうしたゆるく薄くつながるナナメの関係性が多層的に存在するのが良い地域という考えかたがあり、ここらへんは「強い紐帯を一つだけ持つより、弱い紐帯をたくさん持つほうが生存には有利」という話とつながるのだろう。
 
徒然なるままに理想の「おじさん」像を追求しているのだが、「おじさん」こそはまさにナナメの関係性を担う存在だ。
ガチガチの親子関係というタテやニッチもサッチもいかない友人関係というヨコにがんじがらめになった子どもや若者に、「こういう考え方や生き方もあるぜ」とオルタナティブをナナメからそっと提供し、閉塞に風穴を開けるのが「おじさん」だ。
「おじさん」の開けた風穴から、やっとのことで息を吸える子どもや若者もいるだろう。風穴からは、ここではないどこかが垣間見える。
 
「おじさん」は近所にいなくてもいい。
物書きの書いた一行、ミュージシャンの奏でたひとフレーズが、タテとヨコに絡みとられた子どもや若者を取り巻く壁に小さな風穴を開ける。どんなに小さな風穴でもそこで息が出来る。いつかその風穴を広げ、広い世界へ脱出できる、かもしれない。
あるいは繁華街の片隅の「おじさん」が、子どもや若者の閉塞に風穴を開けるかもしれない。
繁華街の片隅、半地下の店。
アバンギャルドなインテリア、見るから寿司屋のカウンター。7年前のフライヤー。選曲極めてマニアック、イチオシ特製焼きそば。そんな店に、聖なるおじさんはいる。
ぼくは、そうしたセイントおじさんを目指したい。
そのために必要なのは何か。余力と諦観とセンスではないだろうか。
 (続く)

 

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