氷上のクリエイターと映画『ザ・メニュー』またはヴォルデモートは鬼束ちひろを聴いたか

クリエイターやアーティストは、時々世界を焼きたくなるのではないか。いやたぶん焼きたくなるのだろう。

とあるニュースを見て、そんなことを思う。

 

2022年公開の映画『ザ・メニュー』はご覧になっただろうか。

『ハリー・ポッター』の一部でヴォルデモート役のレイフ・ファインズが天才シェフを演じる。

ネタバレを極力避けたいが、『ザ・メニュー』でも主人公ジュリアン・スローヴィクは、彼の作り上げた世界を、焼く。

クソッタレのスポンサー一味、クリエイターを殺しに来る売れっ子評論家、なんでもかんでもありがたがる半可通のファン、物の価値のわからぬ太客、そして切り離しても切り離せないでも切り離したくもない過去の象徴である酔いどれの老母もろとも。

 

『ザ・メニュー』の場面構成は美しい。

料理の彩りを映させるためかはわからぬが人物や背景は抑えめの色合い。

時折、真上から見下ろす構図が挟み込まれる。

シェフが料理を見下ろす視点であり、神が人間界を見下ろす視点でもある。

思えば英語で神はThe Creatorであり、シェフもまたcreatorの1人だ。

 

全ての才能と努力と生活を投入し、己の望んだ世界を作り上げて手にしたと思ったときに自分に与えられたものを見て、クリエイターやアーティストは愕然とすることがあるのではないか。

そして得られた世界のすべてを焼いてしまいたくなるのではないかと思う。

 

〈I am God's child

この腐敗した世界に堕とされた

How do I live on such a field?

こんなものの ために生まれたんじゃない〉

(鬼束ちひろ『月光』)

 

氷上のクリエイターが今何を思うのかはわからないしわかると言うつもりもない。 世界は、残酷だ。