陰謀論としての稲田朋美防衛大臣辞任~誰が「グッドルッキング」と言わせたか

稲田朋美氏が7月28日、防衛大臣を辞任した。いわゆる日報問題が直接の原因だ。

ここ1、2ヵ月ずっと気になっていることがあって、それはあの時誰が「グッドルッキング」と言わせたかである。

 

一連の稲田朋美氏バッシングが世間に流通し始めたのは6月3日シンガポール「アジア安全保障会議」での演説からではないかと思う。その席上で、稲田氏はオーストラリアとフランスの女性国防大臣について触れ、「私たちは女性で同世代、そして何より重要なのは、皆グッドルッキング!」と演説した。

それが国際的に失笑を買い、批判の対象となった、とすぐに報道されたのは記憶に新しい。

以下、陰謀論になる。
一国の大臣が国際的な場で演説をする際、ましてや母国語でない言語でスピーチをするならば、スピーチ原稿なしで演説したとは考えにくい。
責任ある立場での発言なので、事前に問題がないか防衛省内でダブルチェック、トリプルチェックを受けているはずである。
「グッドルッキング」のジョークを発案したのが稲田氏本人なのか周囲のスタッフなのかはわからないが、常日頃から他国のカウンターパートとのやりとりを行っているスタッフは問題視しなかったのだろうか。もしかして、あえて誰かがスルーしたのではないか、と思ってしまうのだ。

他官庁の例を挙げる。
<新任大臣が、うっかり役所の意図とは異なる発言をしてしまうと、役所にとって都合の悪い事態を招きかねない。それを阻止するために、新任大臣が内定すると、記者会見の前に、秘書官がコンタクトを取り、作成した答弁集を渡し、「この件については、やるといわないでください。どうしてもという場合でもこれから検討しますとおっしゃってください」という具合に、吹き込むのだ。この答弁集は、「べからず集」と呼ばれている。>(髙橋洋一『さらば財務省!』講談社 2008年 p.236。新任大臣が就任記者会見に臨む前の話とのこと)

大臣がヘンなことを言ったり、役所の方針と違う話をしたり、できもしない約束をしたりしないようにチェックするのも官僚の仕事のうちのようだ。

週刊誌レベルの話になるが、稲田氏は以前より防衛省内での評判があまりよろしくなかったようだ。

週刊文春8月3日号では<防衛官僚覆面座談会>と銘打ち、防衛省担当記者、防衛官僚A、B、Cなる人物を登場させ、こんなコメントを載せている。
<記者 で、初外遊で早速物議を醸したのが昨年八月のジブチ訪問でした。
官僚B 野球帽とサングラスの「リゾートルック」姿をみて、のけぞりましたよ(苦笑)。続く護衛艦の視察もマリンルックにハイヒール姿。規律や服装に厳格な自衛隊だからこそTPOは大事です。>(上掲誌 p.26)
<官僚A 私も過去二十五年以上三十人以上の大臣に仕えてきたけれど、申し訳ないが史上最低。本当に嵐のような一年だった……。>(上掲誌 p.27)
この週刊文春が店頭に並んだのは辞任が決まる前だが、もし辞任することがなければこの覆面官僚なるものは誰なのか、「犯人探し」が行われてもおかしくないほど踏み込んだ発言のようにも思える。また、同週の週刊新潮でも稲田氏バッシングが同時に展開されているのも大変印象的だ。

少々回り道を。
今から四半世紀前、一冊の本が世間の話題をさらった。小沢一郎氏の『日本改造計画』である。

小沢一郎氏は当時、閉塞した政治状況に風穴を開けるのではないかとおおいに期待され、おおいにおそれられた。

その本のまえがきはこう始まる。
<米国アリゾナ州北部に有名なグランド・キャニオンがある。コロラド川コロラド高原を刻んでつくった大渓谷で、深さは千二百メートルである。日本で最も高いビル、横浜のランドマークタワーは、七十階、二百九十六メートルだから、その四つ分の高さに相当する。

 ある日、私は現地に行ってみた。そして、驚いた。

 国立公園の観光地で、多くの人々が訪れるにもかかわらず、転落を防ぐ柵が見当たらないのである。しかも、大きく突き出た岩の先端には若い男女がすわり、戯れている。私はあたりを見回してみた。注意をうながす人がいないばかりか、立札すら見当たらない。日本だったら柵が施され、「立入厳禁」などの立札があちこちに立てられているはずであり、公園の管理人がとんできて注意するだろう。>(同書 p.1)

小沢氏の『日本改造計画』はそのあと、アメリカは自己責任で個人主義の社会であると述べ、日本は<自ら規制を求め、自由を放棄する。そして、地方は国に依存し、国は、責任を持って政治をリードする者がいない。>(同書p.5)>と続く。
日本が国家として自立するためには個人の自立が必要で、そのためには「グランド・キャニオン」から柵を取り払わなければならない、と同書はアジっている。

だが、このグランド・キャニオンの柵のエピソードについてこんなことを書いてある本がある。
<これは大嘘です。実際は、柵はちゃんとあります。柵が立ってないのは、観光客の入らないところだけです。グランドキャニオンには毎日、たくさんの日本人観光客が入るわけだから、この前書きを読んで首をかしげる人は多いはず。一体なぜ、こんなバカなことが書いてあるのか。

 あの本は、実は、官僚と新聞記者の合作なんですよ。小沢さんという人は、東大出のいうことは何も確認しないで信じてしまうということをちょっと利用させていただいた、われわれのイタズラなんです。小沢さんという人は、恐ろしく単純なアメリカ崇拝論者だから、それをからかったんです。そして、その本の顔である前書きで、わかる人には「この本おかしいぞ」とわかってほしいというひそかな願いもこめてね。>(テリー伊藤『お笑い大蔵省極秘情報』飛鳥新社 1996年 p.105。大蔵省(当時)主計局キャリア・軍司誠(仮名)氏の発言として記載)

グーグル画像検索で見ると、やはり柵はあるようですね。

 

アジア安全保障会議での「グッドルッキング」発言に戻る。

「グッドルッキング」ジョークがもしウケれば大臣も喜ぶ、しかしセクハラ・コードに引っかかって失笑をかえば大臣の足を引っ張るネタを懇意の記者に提供し、世間が稲田氏についてどう反応するか観測気球を上げることが出来る。どちらに転んでも損はない。

他国の女性国防大臣を引き合いに出して「私たちはグッドルッキング」と言わせることで、分かる人には「この人はおかしいぞ」とわかってほしいというひそかな願いをこめたスピーチライターが防衛省内にいたんじゃないかと思ってるんですが、中の人、いかがでしょうか。

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

3分診療時代の長生きできる受診のコツ45

 

 関連記事

hirokatz.hateblo.jp

hirokatz.hateblo.jp

hirokatz.hateblo.jp