日本はいかに団塊ジュニア世代の老害化を防ぐか(その2)~べき論ではない。美意識である。

べき論ではない。美意識である。
老害の話。
 
日本最大・最後の人口ボリュームゾーンである団塊ジュニア世代が老害化しつつある。大勢は変わらないだろうが、せめて個人としては老害化に抗いたい。
 
〈私たちの世界は、昔に比べれば優しく、より寛容で公正で、より多様性を受け入れる場所へと変貌してきた。それを一貫して推し進めてきた原動力があるとすれば、それは人間が長くは生きないということに尽きる。ノーベル経済学賞を受賞したポール・サミュエルソンが好んで口にしていたように、社会や法律や科学は「1つ葬式があるたびに」大きな変革を遂げるものだ。
量子物理学者のマックス・プランクも同じことを確信していた。亡くなる少し前の1947年に次のように記している。「科学における新しい真実は、敵対者を説き伏せて理解させることで勝利を勝ち取るのではない。むしろ、その敵対者が最後にはこの世からいなくなり、新しい考え方になじんだ新しい世代が育っていくことによって勝利する」〉
 
そんな身も蓋もないことを書くのは老化と若返りの研究者デビッド・A・シンクレア。彼は著者『LIFE SPAN』(東洋経済新報社)でそんなふうに書き、こう続ける。
 
〈命が、1つ終わるたびに、世界は捨てるべき思想を捨てていく。命が1つ生まれるたびに、世界はより良いやり方で物事を行なう機会を与えられる。〉(前掲書 p.363-364)
 
さて、シンクレアが正しいとすると、人間の寿命が伸びた人生100年時代には、困ったことが起こる。一言で言えば、「停滞」である。
 
これからその主な原因となるであろうことの一つが、わが団塊ジュニア世代の老害化ではないかと危惧している。
なんとか老害化に抗いたい。ただし、これはぼく個人の美意識の問題であり、「べき論」ではない。「べき論」を他者に押し付けるところから、老害化は始まる。
 
 
 
せっかく生きるのでならば、よく行きたい。
よく生きる上で目下の敵は、己の老害化だ。
どうしたら老害化を防げるか。
そのためには<アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ>いることが必要ではないだろうか。
自分のちっぽけな利益や損得を積極的に手放していくことで、己の老害化を防げる。老害化しないために、言ってみればちまちま小銭を稼ぐようなことをせずに、己を
 
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えーっと、「有料記事」云々は冗談です。さて。
 
<人間が食べ物のことを、旨いとか不味いとかいうようになったのは、いつからだろうという話をしたことがある。
他の動物と同じように、ひたすら生きるためだけに喰っていた時代には、そんなことはどうでもよかったはずだ。ということは、食事の味をどうのこうのと言い始めた時期があるはずだ。
それは、いつからなのか?
人間が他の動物に喰われるかもしれないっていう状況じゃ、食い物に旨いも不味いもないだろうというわけだ。なるほど、そのとおりかもしれない。>
(北野武『全思考』幻冬舎文庫 平成21年 p.94 文中のクマさんは北野武氏のいきつけの赤坂の料理屋の主人、輿水治比古氏の愛称)
 
己の老害化を避ける話。冒頭の話のあと、北野武氏はこんな話をする。綾小路きみまろ氏が、遅咲きで売れたころに書かれた文章。
 
〈俺が他人の成功を喜ぶことができるのも、他の芸人に喰われる心配がなくなったからだ。自分と同じ世代から、まだお笑いで人気者になれる芸人が出てきたわけだ。〉(p.94)
〈もし俺が、今も綾小路と同じ舞台に立っていたら、2人でひとつのポジションを争っていたとしたら、こんな風には喜べなかったはずなのだ。〉(p.96)
〈売れてよかったと思う。他人の成功を素直に喜ぶことができる。それがどれだけ幸せなことか、この歳になってよくわかる。〉(p.96)
 
老害の要素の一つは、他人、特に若者の成功を素直に喜べないというところにあるのではなかろうか。
他人の成功を素直に喜べないから、アドバイスに見せかけてイヤミや妬みといったネガティブな感情を相手にぶつけてしまう。あるいは愚にもつかない自慢話を垂れ流す。
だがそれは、劣等感やコンプレックスの表れだったりする。
 
〈哲人 たとえば、自分の手柄を自慢したがる人。過去の栄光にすがり、自分がいちばん輝いていた時代の思い出話ばかりする人。あなたの近くにもいるかもしれませんね。これらもすべて、優越コンプレックスだといえます。
(略)
アドラーは、はっきりと指摘しています。「もしも自慢する人がいるとすれば、それは劣等感を抱いているからにすぎない」と。〉(岸見一郎他『嫌われる勇気』kindle版 第二夜)
 
北野武氏が正しいのならば、おかしな自慢話とかで若者にマウンティングしたりする老害にならないためには、やはりそれなりの成功をおさめなければならないようだ。
また、アドラーが正しいなら、自分自身が鬱屈したコンプレックスを抱えたまま加齢すると、老害化し得る気がする。
自分の欲求や欲望と現実のギャップがコンプレックスにつながるので、欲求や欲望のレベルを下げるという方向性もあるだろう。「足るを知る」というアプローチだ。
 
団塊ジュニア世代がみな現世的な成功をおさめることが出来るかというと、希望的なことは言い難い。なにしろ人数が多いし、残された時間は少ない。
とすると、団塊ジュニア世代の老害化を防ぐには、欲求や欲望のラインを意識的に下げるか、欲求や欲望という感覚を麻痺させるしかない。
とりあえずストロングゼロを買ってこようと思う(続くかも)

付記。友人O氏より、「北野武とアドラーの主張は異なる。北野武の話は自己肯定感が低くても成功により他者を認めることができるという話だが、アドラーのいうのは無条件の自己肯定感だから成功を必要としない」という指摘を得た。
ぐうの音も出ない正論だと思う。ぐう(←ぐうの音)

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田島列島『水は海に向かって流れる』1巻より
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