「アメリカのいろんな街に行くとさ、オレ必ずあのアイスクリーム食べるんだよ。ほら日本でも売ってる、ドイツっぽい名前のアイス。
そうするとね、いつものあのアイスが出てくる場合と、“シャリっ”とするアイスがある」
友人Aが言った。
シャリっとするアイス?
「アメリカって広いじゃない?
だからさ工場で作ったあのアイスクリームも冷凍のまま適温で消費者まで届く街と、運んでる間に溶けちゃって店舗でそれをもう一回冷凍して売る地域があるわけ。 そうした再冷凍したものは氷の粒子が出来ちゃうから、シャリっとするわけ」
なるほど。
「この街の流通網はどっちかなってわかるから、あちこちの街であのアイスクリームを食べ比べるんだよね。
もちろん一回溶けちゃうような地域で売る製品はそれに合わせた製品づくりをしてるんだけど、それでも再冷凍の時の“シャリっ”は出ちゃう。」
へえ。
「でね、話は飛ぶんだけど、よく“日本の農産物は最高。これを輸出すれば大儲け”みたいな話あるじゃない?あれで見落としてるのはここ。流通。
日本の農家とかの野菜や果物、これは最高だとオレも思うよ。
でも、その“最高”を“最高”のまま消費者のもとに届けるのに日本の小売業者がどれだけの労力やコストをかけているか。そこが見えてないんだよな。
だからそういう流通網が無いところに“最高”の農産物を輸出したって期待通りにはいかないよ。
運んでる間に味が落ちるんだから」
なるほどねえ。
そういえば『サイゼリヤ』の会長も、野菜などの食材は保管時の温度と湿度、経過時間および輸送時の振動で味が落ちると書いている(①)。牛乳が振られ続けると水分と脂肪分に分離するように、ほかの食材も輸送時の振動などで味が変わるという。
あるいは日本人の起業家がニューヨーク近郊のイチゴの野菜工場建てたニュースを読んだけど、あれも日本からイチゴを輸出した場合は流通上の課題が起こるのだろう 。
“最高”のものを“最高”のまま消費者に届けるため、日本の卸や小売業の人たちは常に努力している。
だから小売業の人たちは、誇りを持って「小売・“流通”業」と名乗るのだろう。
今日この時間も、どこかでトラックは走り続けている。
翻って、我々医療者は行政の強力なイニシアチブのもと、相当なスピード感で全国でコロナワクチン接種を行った。
これは誇るべき成果だけれど、これもまたマイナス80℃で保管されるべきワクチンをマイナス80℃のまま全国津々浦々まで届けてくれる日本の流通の方々のおかげでもある。
心からの感謝を。
①『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい』正垣泰彦(日経ビジネス人文庫 2016年)
②NYで「高級イチゴ量産工場」営む日本人の野望 | スタートアップ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)