21日発売の週刊ポストでは先週号に引き続き<「塩分を減らせば血圧下がる」はやっぱり間違いだった>という特集をやっている。特集では<「塩分過多が高血圧を引き起こす」という“常識”を覆した本誌前号の特集は、大反響をもって迎えられた。>(p.32)と盛大にブチ上げている。
しかしこの<「塩分を減らせば血圧下がる」はやっぱり間違いだった>という言葉、うのみにするのはお勧めできない。この見出しそのものが「やっぱり間違い」ということは、玉石混交の情報が錯綜するネットの海で泳いでいる人ならすぐ気づく。
怪しげな医療情報はたくさんあるが、もし手練れのネットウォッチャーだったらどう見破るだろうか。
まず確認しておくと、やはり食塩過剰摂取は血圧上昇と関連がある(と少なくとも大多数の医学者は考えている)。
日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2014』では、高血圧のための生活習慣の第一に食塩制限を勧めている(第4章)。彼らが勧めているのは一日あたり食塩6g未満の食生活だ。日本人の平均食塩摂取量はおよそ10~12gとされている。
ある研究によれば<減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少する>(同ガイドライン第4章より孫引き)という。
高血圧を悪化させないためには、やはり減塩は有用そうだ。
さて、今回の週刊ポスト記事。<「塩分を減らせば血圧下がる」はやっぱり間違いだった>という見出しが表紙に踊るが、この見出しそのものが「やっぱり間違い」である。
ネット上のインチキ情報やデマ、創作話ー「釣り」ーを次々に見破ってきたHagex氏は、怪し気な文章をチェック方法するために<この文章がすべて本当だったらどうなのかというチェック方法ーすべての文章は「真実」だと思って読んでいこう>という方法を提唱している(Hagex『ネット釣り師が人々をとりこにする手口はこんなに凄い』アスキー新書 2014年 p.69-71)。
怪しい情報・怪しい文章のほとんど全ては、人目を引くことを優先して作られているため、文章内の情報すべてを「真実」として丹念に読んでいくと矛盾やほころびに気づくことができる。もともとがいい加減な情報を寄せ集めて作られている文章では、文章内で整合性がとれていない。
だから、怪しげな文章に書かれたことすべてをいったん「真実」として読んでいくことで、自分の専門分野でなくてもその文章がおかしいと気付くことができる、というのがHagex流である。
そうしたHagex流の読み方で今回の週刊ポスト記事を読んでみる。
そうすると、文章内のほころびや現実との矛盾が見えてくる。
<「塩分を減らせば血圧は下がる」はやっぱり間違いだった>(表紙、p.32-33)<塩分犯人説」は終わっている>(p.35 小見出し)とブチ上げながら、本文中には<「塩分を摂取しても、血圧が上がる人と上がらない人がいる」という点にも注意が必要だ。>(p.35)とさらっと書いている。塩分を摂取して血圧が上がる人、いるんじゃないか。
また文章内では、1984年に<高血圧研究の権威として知られる>ある教授が<「塩分摂取量は血圧は関係ない」と異議を唱えた。>とある。しかし今から30年以上も前に<高血圧の権威>が塩分と高血圧は無関係としたのに、今でも世界中で減塩指導をしているのはちょっと変である。「高血圧の権威」が塩分と高血圧を無関係と主張した一方で、それに反論する研究がたくさんあったと考えるほうが理にかなっている。
文章内ではまた別に、<高血圧改善の鍵を握るのはマグネシウムだ。>(p.35)とし、マグネシウムやカリウムなどを含む天然塩を勧めている。その理由は<「(略)塩分を排出するカリウムやカルシウムも多く含まれるので(略)」>(同頁)。
だが、塩分が高血圧と無関係であり、<「塩分犯人説」は終わっている>ならば塩分を
体外に排出する必要はないはずだ。
こんなふうに、超一流凄腕ネットウォッチャーのやり方を使えば、週刊ポスト<「塩分を減らせば血圧下がる」はやっぱり間違いだった>という記事が「やっぱり間違いだった」というのは見破ることができる。
いい加減な医療情報が出回る今日この頃、『すべての文章をいったん「真実」として読んで矛盾やほころびがないか探す』読み方があることは知っておいて損はないと思われる。
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