医療機関は冬の時代だ。厳冬。
厳冬をなんとか生き延びるのに必要なのは、扇子しかない。
帝国データバンクによれば、2024年に倒産した医療機関は64件、休廃業・解散は722件で、帝国データバンクの言葉を借りれば「市場から消えた」医療機関は786件で、過去最多だという。
2025年は、もっと厳しい。
要因は様々ある。
直接的には診療所経営者(院長)の高齢化も大きいが、物価高騰や人件費値上がり、そしてもちろん診療報酬切り下げだ。科によって違うが体感でいわゆる患者単価は5〜8%下がっているのではないか(要検証)。
インカムが減り支出が増えているのだから、そりゃあ苦しい。
70代の院長とかが「もうあと数年働いて勇退するつもりだったけど、なんかもう保険診療、いいかなって感じ」といいながら診療所を畳んでいる絵が浮かぶ。
2024年-2025年の冬の要因では、コロナワクチンやインフルエンザワクチンの支払いというのも重い。
今まではコロナワクチンは国から支給される形だったが、2024年-2025年秋冬シーズンは各医療機関が仕入れる形になっている。この支払いが重い。
もちろん接種実績に応じて自治体からワクチン接種のぶんのお金はふりこまれるので、トータルとしてみればトントンなのだが、支払いと振り込みにタイムラグがある。
支払いと振り込みのタイムラグがどれだけ心細く胃が痛くなる日々かは、経営者ならわかるだろう。
保険診療に従事する医療機関の冬の時代が明ける見込みは残念ながら乏しい。
だがしかし、医業をやめるわけにはいかない。
どう凌ぐか。
「最後の船場商人」と言われた和田哲夫氏はこんな言葉を残している。
〈「大企業とちごうて、船場の中小企業というもんは儚いもんや。ちっぽけな問屋が、この世界でいつまでも生きつづけるためには、どんな不況にも、決して潰れんような体制にしとかんとならん」
たとえばといいながら、手にした扇子を開いて、
「暑い時にはいっぱい開いて使うけれども、いらん時には小さくたたんでおくやろ。
経営もこれと一緒、いつまでも続く好景気なんぞはどこにもあらへん。必ずつぎは不景気や。(略)それやよってに、その時々にすぐ応じられるように、常から準備しとかんならん。ええ時はひろげ、わるい時はちぢめる。
いってみればわけないことやが、実はこいつがむずかしい……」〉
(和田亮介『ある船場商人の遺言 扇子商法』創元社1993年p.10-11)
医療機関にとって今は扇子はちぢめる時期のようである。
