「入門したら徹底的に”遊ば”せる」。深夜のバーで噺家が言った。

「あたしらの世界はね、入門したら徹底的に遊ばせるんです」 深夜のバーで噺家が言った。 「徹底的に遊ばせるとね、どこかで『ああ、“遊ぶ”といっても所詮はこんなもんか』ってなって、そこから芸の稽古に身が入る」 数十年前に聞いた話。 その一門だけの話…

ジミーの流儀。

週刊プレイボーイで30数年前に読んだ話が、今も心に生きている。 映画の都ハリウッドに一人の男がいた。うろ覚えなので、仮にジミーとしよう。 ジミーはいわゆる業界人ではない。純粋な映画ファンだ。 面白い映画良い映画を観れば興奮して会う人ごとにその映…

謎が解けた日。

悩みに悩んだ謎が一気に解け、あらゆる問題が解決する瞬間がある。 謎1. 外来で、コレステロール値と血糖値がやたらと高い男性がいた。 南のアジアから働きに来ている人だったが、何度聞いても野菜と魚中心のきちんとした食事だという。 「だってドクター…

我、ライナーノーツを愛す。

〈(略)現代において“いーかげん”であり続けることがいかに困難にことか。気が付くと、人間は自分自身のため、家族のため、企業のため、社会のため、国のために汗を流し、自分自身が望んだものはそんなものじゃないのは百も承知の上で大してどーでもいいよ…

医者の仕事も科によっていろいろ。

医者の仕事も科によっていろいろ。 今まで「へー、そういう考え方でその科を専門にしたんだ」と感心した例がいろいろありました。 ①血液内科医「消化器外科と消化器内科、心臓外科と循環器内科とか、外科と内科って対になってるけど、血液外科というのは無い…

選挙と手品は似ているという話。

選挙と手品は似ている。 どちらも、ショウが始まる頃には仕込みは終わっている。 田中角栄は新人候補にこう言った。 〈戸別訪問を三万軒やれ。辻説法を五万回やれ。そうすれば当選できる。県境の沢に分け入り、四、五十人の村まで訪ねろ。そして、じいさん、…

海の民 山の民。

とある地域の漁業組合にヒアリングに行ったことがある(本当)。 昔より遠洋漁業の勢いが無くなって少し元気が無いみたいな話の流れの中で、仲間の一人がこう言った。 「隣町は伊勢海老の養殖で成長してるとか。この町ではやらないのですか」 漁協の方が言っ…

若さの本質は「試行錯誤」と「時間の浪費」である。

〈若い時に若かった人は仕合せである。よい時期に成熟した人は仕合せである。〉(プーシキン『オネーギン』岩波文庫 1962年 p.138)「君ら、いくつや?…そうかええなあ。10億円出しても代わりたいわ」島田紳助氏が吉本総合芸能学院の若手に講義した時、そん…

【備忘録】京都に全力で上手する【大人の事情】

(「大人の事情」で全力で京都に上手をしたツイート群) 京都の魅力の一つはその懐の深さだ。 東京という街は奇人変人傾奇者に対し見て見ぬふりを決め込むか反対に骨の髄までしゃぶり尽くして最後は捨てるが、京都という街は奇人変人傾奇者を愛でるところが…

【備忘録】腕時計あれこれ

(自ツイートのまとめです。備忘録的に)4月から研修医になるかたへ。 不本意ながら「腕時計買え」とアドバイスさせていただきます。 いつの日か、おごそかな雰囲気の中で現在時刻を確認する役目が回ってきます。 そのときに腕時計が無いと、スマホで確認し…

【備忘録】『火垂るの墓』雑感。

ここのところTwitterで『火垂るの墓』が話題だ。いわゆる自己責任論的な視点での批判的ツイートが少なくない。しかしもちろん、『火垂るの墓』はそんな単純明快な話ではない。 『火垂るの墓』の原作読むと、親を失い家を失い未来を失った子ども達が「浮浪児…

仕事量をどのくらいにチューニングすればちょうどいいのか問題と「宥坐の器」

仕事をし始めて20年以上が経つ。ほんの7〜8年前に大学を卒業したくらいの肌感覚なのだが(←本当)、時の経つのは早い。いわば自営業なのでいつまで働くか日々の仕事量をどれくらいにするかはある程度コントローラブルである。幸せなことだが一方で自分で決め…

【備忘録】ミッキー経済vsポケモン経済

「日本にはもうアニメや漫画くらいしか売れるものがない」と自嘲気味にいう人がいる。 だがちょっと待ってほしい。 たとえばミッキーマウスが存在しないアメリカを想像できるだろうか。 アメリカのGDPは23兆ドル。 ミッキーの売り上げは706億ドルだ。 対して…

”シャリっ”とするアイスとワクチン接種。

「アメリカのいろんな街に行くとさ、オレ必ずあのアイスクリーム食べるんだよ。ほら日本でも売ってる、ドイツっぽい名前のアイス。 そうするとね、いつものあのアイスが出てくる場合と、“シャリっ”とするアイスがある」 友人Aが言った。 シャリっとするアイ…

【備忘録】加齢後の世界。

加齢とともに価値が見えてくるものがある。その一つが「ディナーショウ」 若い時は、最盛期を過ぎた歌手のショウになぜ大人は何万円も払うのか疑問だった 今ならその価値がよく分かる 自分の青春時代のスターと近くのホテルとかで会えるのだ スタンディング…

「勢い」考。

「勢い」とはなんだろうか。 先日、友人Aと話していてそんな話になった。 僕は不可知論者/agnosticなので、できるだけ超自然以外のものに答えを求める。 誰かが「勢いに乗っている」状態はどのようにして作られるのか。考えながら書いてみたい。 「勢いに乗…

配膳ロボは優良顧客の夢を見るか。

ネットで、年配の人がファミレスで店員に注文しようとして何度も「タブレットでご注文ください」と言われちゃうエピソードを読んだ。 切ない気持ちはわかる。 すごくわかるんだけど、徹底した無人化によってコスト抑えて実現した低価格と、人件費かけた人的…

「〇〇という論文があります!」という人へ。

コロナ禍でマスク着用やワクチン接種をネット上でお勧めしていると、「◯◯という論文がありますよね。知らないんですか(笑)」というような言葉をかけられることがある。 理にかなった反論もあるが、多くの場合は思い込み先行のいわゆる反マスク、反ワクチン…

Egalitarianのパラドックス~「官僚が金持ちの息子の名誉職になりつつある」

こんなツイートを見かけた。 「官僚は庶民に比べいい暮らししてるでしょ!」とかいうコメントとかDM送ってくる人いるんだけど、東大出身の標準レベルを考えてものを言ってほしいな東大標準の半分の給料で激務に働けとか、官僚が金持ちの息子の名誉職になりつ…

日面仏、月面仏ー「明日死ぬリスク」と「長生きリスク」のはざまで。

「明日死ぬかもしれないから、後悔しないよう好きに生きる!」。 医者稼業をやっていると時々そんな人に出会う。 その都度、そうですねと言いながら曖昧な笑みを浮かべる。 だが人生100年時代、明日死ぬリスクとともに、これから数十年「生きてしまうリスク…

非メモの魔力。

「若い時に工場の管理を任された。定期的に工員の面談をするんだ、一人一人。全員やると半年くらいかかる」 「はあ」 「“何か問題はないか”、“困ってることはないか”、1対1で面談する。それを全員やる。そうすると、工場全体の問題が浮かび上がってくる」 「…

人生後半戦について啓発本に書いてあることは2つしかない。

不惑を超えて、まだ惑う。 40歳手前までは、いわゆる人生指南本は遠ざけてきた。染まるのが嫌だったからだ。 それから10年経って、「車輪の再発明」も不要かと時々指南本を手に取ってみる。 当然ながら、人生のステージによって指針は異なる。 特に興味のあ…

眠れる夜のために。

「寝つきのいい男はダメだ。仕事のことを四六時中考えて、“ああでもないこうでもない”と悶々として眠れなくなるようじゃなきゃ、出世なんかできないよ」 恰幅のよいその人はそう言うと、自信満々に笑った。 寝つきのよい僕も、つられて愛想笑いをした。 なる…

「自分の頭で考えて!」にまつわるうさんくささについて(自ツイまとめ)

(保管用の自ツイまとめです。そのうち文章として形を整えたいと思っています)・「自分の頭で考えて!」とかいうの、そっちが望む答えを言わないかぎり「それは本当に自分の頭で考えたことなの?」「誰かに言われたことを鵜呑みにしてるだけ」と激詰めされ続…

アラフィフを襲う、バケツ1杯の水に墨汁1滴垂らしたくらいのある感情について。

(自ツイートを保管用にまとめたものなのでぶつ切れの文章です) ・逃げも隠れもしない団塊ジュニア世代なんですが、団塊ジュニアや氷河期世代は時々きちんと「こんなんワシらが望んでた未来とちゃうで」ってことは言っとかないといけないと思う。現状が変わ…

Twitter大量リストラに思う「一産業30年仮説」。

米国のハイテク企業でリストラが加速しているとかで、Twitterでも猛烈な首切りが行われているらしい。そんななか、一産業30年説という仮説を思い出した。 こんなものだ。 ①最初の10年、その産業が海のものとも山のものともわからない勃興期には、ギラギラと…

君は八千代チャーマーを見たかー社会の包摂とハローキティ。

人の世は不条理で、たとえば同じ時代に生まれ、同じスタートラインから「ヨーイドン」でスタートしたとしてもその後の人生はまったく異なる。 ぼくは1973年生まれでそれなりに頑張ってきたつもりだが、たとえば翌1974年生まれのハローキティには人気も収入も…

SNSとゲニウス・ロキ。

「大阪の会社はね、よく本社を東京に移すでしょう。 でも京都の会社は本社を東京に移さない。 なんでかわかります? 京都から本社移す必要がないからですよ」 そんな話を聞いたのは京都の霊山歴史館でだった。 KYOTOは世界ブランドで世界中みんな知っている…

地方都市にいくとポツンと建っている、おしゃれな繁盛パン屋は誰が経営しているのか?ー藤野英人著『ヤンキーの虎』をお勧めする。

「地方都市に行くとオシャレなパン屋がポツン建っていてかなり繁盛している。いったいあれは誰が経営しているのか。 それは、『ヤンキーの虎』だ!」 藤野英人『ヤンキーの虎 新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社 2016年)はそんな本だ。ベッドタ…

我らが社会と陰と陽。

「俺らの世代は撤退戦。前の世代が広げ過ぎたものをうまく畳んで、次の世代に手渡すのが俺らの世代の仕事じゃないかな」 今から10数年前、友人Oがしきりにそんなことを言っていた。 当時は、そうは言ってもなにかやりようがあるのではと反論したりもしていた…